短編集 禁断の扉 親のコネで親の会社に入社してみたら、期待していたエリート職なんかではなく、なんと地下にある搬入所に配属されてしまった。 大卒とは言え親のコネで入社するような奴に、まともな仕事は与えられん、と父親は言った。それが嫌なら自力でどこかの会社へ入社して働け、家も出て行け、と言われて、生来根性なしの千尋が実行するはずがない。 仕方なく、毎朝毎朝、他の社員とは違う入り口から本社ビルに入り、地下へ向かう。 背広を着て働いている人間が輝いて見える。千尋は紺色の作業着で、郵便物・宅配物を仕分けして各フロアへ届ける。 まるで工場勤務と変わらない。 しかも地下。しかもリストラ対象の人間の吹き溜まりであることは間違いない、勤務者の年齢層の高さ。 気分も腐ろうというものだ。 来る日も来る日も、地下で黙々と働き続ける。給料も大したことは無い。 辞める根性もない。 千尋は笑わない青年になっていった。 ある日のこと、千尋は初めて先輩から行ったことのないフロアへの荷物を任された。 「千尋くん、悪いが、今日は堂本さんがお休みなんで、これを頼むよ」 腰の曲がった定年間近の男に渡された荷物を見ると、20階と書いてある。 20階以上のフロアはベテランの者だけが行くことになっていて、まだ新米の千尋は一度も行ったことがなかった。 「わっかりましたー」 荷物を受け取るとかなり重い。表示は「紙類」となっているから、会議で使う資料か何かだろうか、と推測される。 20階は会議室だけがあったはずだ。 なるほど、会議の資料に間違いないと踏んで、その重たい荷物を抱えて搬入用エレベーターに乗った。 他の社員が使うエレベーターは最新式で、最上階の30階にだって8秒で着くのに、昔から使われているこの搬入用エレベーターは遅い。メンテナンスも怠っているのでは、と不安になるほど反応が悪い。 荷物を一度床に降ろしてから20階に着くのを待った。 ポーン。 と、機械的な音がしてエレベーターの扉が開く。 目の前の床は落ち着いたワインレッドの絨毯。足を踏み出せば、ふわりと柔らかく靴裏を受け止めてくれる。 「くっそ、ずりーなぁ、こんな高そうな絨毯…」 呟いて、会議室の方へ歩いて行く。 このフロアには大会議室がひとつのみだ。 会議室前には何の貼り紙も出ておらず、今日は使用していないようだった。使用する予定もないのだろう。 「あれ、だったらこれどうすんだろ」 一応、会議室の扉を開けてみる。鍵はかかっていなかった。 「あのー……」 「あっ、あんっ……はぁッ!」 小声で呼びかけながら、扉を開いた途端。 完全に防音設備となっている会議室の中から、今までは聞こえてこなかった声が響き渡った。 悩ましい声は、男のものだ。 驚いて立ちすくむ。 開いた扉の隙間から、千尋の目には、椅子に座った二人の男がしっかり映ってしまっていた。 男が椅子に座り、その上にもう一人、男に背を向けてまだ若い男が座っていた。 背広の上半身は乱れ、ネクタイが解けてぶら下がっている。 下半身はあろうことか靴下と革靴しか身に着けていなかった。 両足を大きく広げたそこには、後ろの男のペニスが突き刺さっている様がはっきりと見て取れる。 ぐちゅ、ずちゅ、と濡れた音すらたてて、ペニスは激しく出入りを繰り返していた。そしてその度に青年は顔を歪めて口からあられもない声を出す。 「ああんっ……イイ、よぉ…もう、駄目…やぁんっ」 青年の勃ち上がったペニスは限界ぎりぎりと思える程張り詰めていた。男が後ろから手をのばしてそれを握る。 「あっ、あふっ、イっちゃ…イっちゃいますっ…!」 「まだ駄目だ」 男が低く告げた。 そして、青年の肩越しに、千尋へと目を向ける。 「やあ、こんな若い子がここに来るのは初めてだな」 千尋にも見覚えのない男だった。 しかし醸し出る貫禄からして、かなり上層の役員だ。 男は厚い舌でぺろりと青年の耳の後ろを舐めた。 「あぁッ!」 青年の背が反り返る。 「君……搬入部の子だろう? どうだい、君の給料の倍の金を払うから、そこで見ていてくれないか」 下卑た男の声音。 普通なら嫌悪を感じるはずだが、青年のいやらしい姿と、赤黒い男の太いペニスが精液と腸液にまみれて音を立てている姿を目の当たりにして、逆らえるはずはない。 千尋の中に激しい情欲が湧きあがった。 強張った足を踏み入れる。 千尋の背後でパタンと扉が閉じられる。 「さぁ、イくところを見てもらいなさい」 「あぁッ…や、はぁぅッ……!!」 男が一際強く、腰を突き上げた……。 **終** [*前へ][次へ#] [戻る] |