短編集 ラヴィアンローズ? 俺は煙草の煙を吐き出しながら、左横に並ぶ女を横目に見やり、俯せてぴくりとも動かない様子を確認するとふんと鼻で笑う。 そして右横に目を向けると、左の金髪女とは違う漆黒の髪の女がいて、そのさらに横に、女達よりもずっと美しいアルフレッドがいた。 艶やかな黒髪が乱れて目元を覆い、その下から、けだるげなまなざしが覗いて、鳥肌が立つほど俺は欲情する。 アルフレッドのさらに奥にも女が寝ている。 昼間の乱交。でも俺と彼は交わったことは一度もない。不倫はしても男色の禁忌は犯さない彼に、俺は少年を買ったことがあることを告白せずにいた。あえて言うほど馬鹿でもない。 俺は身を乗り出してアルフレッドの顎を掴んだ。 「キスしようぜ」 抵抗されないので、そのまま軽く、くちづけた。 彼が許すのは、キスまでだ。 俺もまだ興奮がおさまらないという風情を装って、それを言い訳にキスだけねだる。 ああ、俺達貴族は、夢の中にいるように、人生がうつろだ。欲しい物は手に入る。人の命を自由に出来る。叶わないことはない。 お前に会ってからの、この恋い焦がれる思いさえも、ぼんやりしてしまう時がある。こうして傍にいられれば、あとはお前と同じ女を抱いて、たまにお前のキスがもらえれば満足だ。それだけでいい。 安っぽい満足に、俺は自分を嘲笑って、体を再びベッドに横たえた。 「俺な」 アルフレッドが煙草を手に取りながら言う。 「ああ?」 と俺は先を促した。 「俺、遠征軍に志願したんだ」 「はぁ?」 肘をついて上半身を起こし、アルフレッドを見やる。彼は焦った俺の顔を横目に見たが、またすぐに天井を見上げた。 「このまま、国にいたって腐っていくだけだろ、俺達。こんなうつろな人生は、俺はつまらない」 「他にもお前に出来ることはあるだろ。戦争に行ったら、もしかして」 死ぬことだって、あるんだぞ。 「いいさ、そうなっても。このままでいるよりいい。それより武勲を立てれば家の名誉だ。昇進出世。国王陛下の覚えもめでたく、帰国すれば宮廷の英雄」 そこまで言って、アルフレッドは笑った。 「ははっ、そううまくはいかないだろうけどな」 「今だって十分……宮廷の英雄じゃないか」 「奥方とお嬢様方にだけはな」 「行くなよ」 「馬鹿、もう決めたんだ」 けだるいまなざしは、いつの間にかはっきりとした意志を現していた。 彼はこの夢の中のような生活から、現実に覚めていきたいのだ。このままいれば、一生、ぼんやりとうつろな幸せの中に漂うように生きられるというのに。 アルフレッドがいなくなる。そのことが、俺の目も覚まさせた。 終 [*前へ][次へ#] [戻る] |