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短編集
翡翠夜話 2
しかしお館様もジュールも、どう呼べ、とは言わなかったので、他の人を真似てお館様と呼んでいる。今だにそうだ。
お父様、と……呼びたくても、今更呼ぶことも気恥ずかしく、気まずく……。
アルにとっては、近くて遠い人だった。


いよいよパーティーまであと一週間、という頃。
アルが会社へ行くと社長室でジュールが立ったまま書類に目を通していた。
「ここで会うのは久しぶりだな」
書類から目を上げてジュールが言う。アルは苦笑してみせた。
この頃は会社に顔を出す暇もなかった。
ジュールはたまに屋敷に来るので顔を合わせていたのだが。
「毎日毎日、大変そうだな」
「うん……まあ、でもお館様が嬉しそうだし」
「だからお前はつき合ってやってるのか」
「お館様の機嫌は取っておけって、ジュールが言ったんでしょう」
「そうだな」
アルはジュールの言うことを聞く。
それほど難しいことを言われたわけではない。機嫌は取っておけ、気に入られておけ、ということばかりだ。
ただ、先日、ジュールの関わる分野以外についての書類の写しを渡してくれと頼まれたのは何故か、それだけ気になってはいたが、あえて問い詰める気にはならない。
自分は、ジュールにとって利用し易い人形なのだと、アル自身は気づいていた。
いつ、気づいたのか、自分でもわからない。
もしかしたら会ってすぐに気づいたのかも知れない。
「お前は俺の言うことだけをよく聞いていればいい」
孤児院に迎えに来てそう言った日、もう気づいていたのかも知れない。

アルは孤児院にいた頃の記憶があまりない。
思い出そうとしても、孤児院の内・外装と、先生の顔がぼんやりと浮かんでくるだけだった。
「アル? おい」
ぼんやりとそんなふうに過去に思いを馳せていると、不審に思ったらしいジュールから声をかけられた。
はっと目の焦点を彼の顔に合わせれば、眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
「疲れているのか?」
「いや、別に……そういうわけじゃない」
心配させまいという笑顔は浮かんでこなかった。
ジュールが純粋な気持ちでアルを心配してくれたことなどない。
アルは、ジュールに利用されている立場だということをよく知っていた。
 熱を出して臥せっても、彼が心配しているのはアルの利用価値が無くなるかどうか、ということだけだ。
身体が弱くては使えないと思っているらしい。
最近ではアルがどれほどの高熱に倒れようとも、寝室を訪れることはなくなってしまった。
見舞いにも来てくれないということは、そろそろ見限られるということだろうか、と思い当たると、怖くなって現実から目を背けたくなる。
誰かの役に立ちたい、と思っているわけではない。
ジュールの役に立ちたいのだ。

疲れているのか、と問いかけはしたものの、実際にはかけらも心配してはいないであろうジュールの顔を上目遣いに睨み、それからうつむいて小さくため息をついた。
「僕、ちょっと…」
「どこか行くのか。今から?」
「風に当たってくるだけだよ。ジュールと話してたら疲れた」
「どういう意味だ」
憮然として言う男に背を向けて、アルは部屋を出た。





お館様が待ちに待った日。
アルの16歳の誕生日のパーティーの日。
きらびやかな舞台で、主役のアルは、精一杯の笑顔でもって賓客をもてなした。
その美貌は、当然ながら噂され、注目を集めるだろう。
そして、孤児院から引き取られた養子だという身の上も噂されるのだ。
パーティーの当日ですら。


アルは休憩のために一度自室へ戻ろうかと、廊下を歩いていた。
忙しく行きかう使用人にまぎれて歩いていた。
そしてある部屋の前を通りかかった時。たまたま、聞こえてしまったのだ。
「アルという子は養子らしいよ」
という、男の声を。
その部屋は休憩室として客に解放している部屋だった。
好奇心から、ちょうどその時、周囲に人気がなくなったのをいいことに、立ち止まってアルは耳を澄ませた。
そこでは、当然と言えば当然の囁きが交わされていた。いや、囁きなどと呼べるものではない。下町の女達の井戸端会議と同じだ。
「あれだけの美貌だよ、ただ後を継がせるために引き取ったとは思えないよね」
「ああ、あれはどう見ても、あっちを目的に養子にしたとしか」
「すごく綺麗な子だったよな。どことなく色っぽくて」
「他に親戚がいるのにあの子を引き取ったということは…」
「つまり、そうとしか考えられない」
「毎晩、寝室でいいことしてるんだろうさ」
沸き起こる下品な笑い声。
「……!」
アルは膝から力が抜けて、その場に座り込むかと思った。
が、かろうじて耐え、壁づたいに歩いてその場を逃げる。
お館様に親戚がいることも、初耳だったが、そんなことよりも…。
「あんなふうに…」
今まで、狭い世界だけで生きてきて、およそ記憶にある限り、悪意にさらされたことはないアルは、がくがくと震える身体をぎゅっと両腕で抱き締めた。
寒気がする。強い吐き気も。
「あんなふうに、噂されるものなのか……?」
自分達のプライベートを見たこともないくせに、あんなふうに、ただ自分が孤児というだけで、ただ顔が美しいというだけで、そんなにも愚かな想像をするなんて。
孤児だからといってアルは卑屈になったことなどない。
一生懸命だった。
それなのに、今初めて、自分の境遇と、貴族という人間を憎く思う。
自分は悪くないのに。お館様は悪くないのに。

「どうして…」
涙も出てこないほどに、ショックを受けていた。

アルは自分の身体を抱える腕を解き、そのまま走り出す。
広い屋敷内を、もうすっかり慣れた自分の部屋へ。
翡翠の部屋へ駆け込み、扉を閉めると、今までの疾走が嘘のように頼りない足取りで寝台へ向かう。
そこへ座ると、ぱったりと横に倒れこんだ。

出たくない。
どこにも行きたくない。
アルはしっかりと布団を握り締め、目を閉じた。


激しく扉を叩く音と、直後に響いた高い足音。
アルの部屋の扉を乱暴に開けて入ってきた人物は、いなくなったパーティーの主役を捜していたジュールだ。
「部屋にいたのか! 何をしている!」
怒りもあらわに怒鳴る。
しかし、アルは寝台に伏せたまま顔も上げない。
近づいて、その肩を力強く引き上げた。
バランスを崩してアルはジュールの胸に倒れかかる。
温かい体温。しかし、降ってくる声は強烈に冷えている。
「早く戻るんだ」
怒っているな、と感じられたが、アルは動かなかった。動く気もなかったし、身体には力が入らない。
全身、力が抜けてしまっている。
ジュールの怒りよりも、あの、下卑た貴族達の目にさらされることの方が怖い。
「アル!」
ジュールは動こうとしないアルの両肩を掴み、自分の体から引きはがして正面から顔を見据えた。
そうして、涙の痕を素早く見つけてしまう。

「……どうした…?」
怪訝そうな声音は、先程の怒声よりは和らいでいた。
「アル、おい」
「行きたくない…」
アルはかすれた声で告げた。

明らかに衰弱しているさまは見てとれたが、ジュールはますます機嫌を損ねる。
「早く戻りなさい」
冷えた声は怒鳴られるよりも恐ろしかった。
ジュールはアルの腕を掴むと引きずるようにして扉へ向かい始める。
アルは足をもつれさせながらもジュールに引っ張られているため転びはしないが、抵抗しようにもろくに力を入れられない。
「待って!いやだっ…」
悲愴な声をあげるアルを、ジュールは振り返らなかった。
「お願い……やだ…よ…」
しくしくと涙が溢れてきた。
涙なんかに揺らされる相手ではないことはわかっていたが、止まらない。
「行きたくない…お願い、お館様に…」
「甘えるな、お前はもう大人だろう」
「誰も僕を大人だなんて、思ってないくせに」
ジュールにもアルの言うことが正しいことはわかっている。
誰も、アルを大人だとは思っていない。
ジュール自身でさえ、箱に入れられて育てられたこの子が、全く大人になり切れていないことなどわかっている。
学校にも行かず、仕事では、常に庇ってくれるお館様の隣で。
しかし、アル自身は、自分を子供だと認めないだろうと思った。僕はもう大人だ、と言い張ると思っていたのだ。
ジュールは泣いているアルを振り返った。もう扉を開ける寸前である。
「誰も……僕のことを、大人だなんて思ってない」
その、誰…という言葉が、果たして何者を指して言っているのか、ジュールにはわからない。屋敷の人間達という意味だろう、と解釈した。
アルには、自分をお館様の「稚児」と見ている人間全て、という意味だったのだが。
強引にここまで引っ張ってきたジュールが、そっと手を放した。
「本当に行かないのか。お館様がお前のために、楽しみにしていたパーティーだぞ。わかっているだろう?」
怒鳴り込んできた人間とは思えない、穏やかな口調での説得だ。
「玄関や広間も、お前のパーティーのために飾って、燭台や食器、使用人達の衣装まで全部、今日のために用意したものだろう。それを無下にするのか」
「……」
正論で責められても、アルの表情は何ひとつ変わらなかった。

それら全てはどうでもいいくらい、パーティーを続けるのがイヤ、ということか…。
ジュールは小さくため息をつくと、扉に手をかけた。
取っ手をゆっくりひねりながら、
「俺は行くぞ。いいんだな」
アルを見据えて最後に手を差し伸べてやったのに、彼は動かなかった。
すがるような目も見せなかった。

ジュールは部屋の主に背を向け、颯爽と出ていった。
扉を閉める時に大きな音をたてることもない。
足音だけはいつもと変わらず、廊下を歩み去って行く。
その音が聞こえなくなる前にアルは寝台に戻った。
涙を拭って、服を脱ぐ。それから寝衣を着て、布団の中に潜り込んだ。
頭まですっかり入ってしまい、自分の膝を抱えて丸くなる。
誰にも触れられたくない。
誰にも関わりたくない。
そう願いながら目を閉じた。
お館様に、アルは具合が悪くてもう部屋で休むそうだと伝えると、ジュールは顔を青くして飛んでいくその後ろ姿を見送ってから自分のグラスにワインをそそいだ。
お館様はアルの様子を見に行ったのだろう。
実際にアルは具合の悪そうな顔をしていたから、仮病というわけでもない。
ワインを一息に飲み干し、知らず、苛々としている自分に気づいた。
何があったのか、話してもくれなかった。
ただ翡翠色の瞳を潤ませて、行きたくないとだけ…。
アルに一体、何があったのか。

物思いに耽っていると、ふとジュールは会場内のざわめきにまぎれた噂話に耳をとめた。
「あんな綺麗な少年なら、俺も一度はお願いしたいよ」
何をお願いなのか、ジュールは即座に理解する。
「レフェリエド卿が夢中になっているのもわかるよ。あんなに綺麗な子は滅多にいない」
「毎晩、あんな年寄りが相手ではつまらないんじゃないのか、あの子も」
「そうだな。今度、若い俺達が相手をしてやろうぜ」
「どうせあの体でレフェリエド卿に取り入ったに違いない」
沸き起こる密やかな笑いはどこか欲情じみていた。
予想できなかったことではない。
見目のいい子を養子に選ぶのは当然だが、比例して下品な噂もたつだろう。
しかし会場でこうまであからさまに噂されては、アルの耳にも入ったのかも知れない。
傷ついたのだろう、と簡単に察せられた。
もしかしたら、すでに誰かに声をかけられて誘われたのかも知れない。手込めにされるまでは至らなくても、いたずらをされたとか、からかわれたとか……。
想像すると、ジュールは怒りのあまりグラスの細い柄を力強く握り締めてしまっていた。
すぐに気づいてテーブルに置き、声が聞こえた方へ目を向ける。
顔と名前がすぐに一致した。
必ず、覚えていてやる。いつかお前達の家を潰してやろう。
今は名のある貴族である彼らの顔を一人一人しっかりと記憶しながら睨みつけた。



アルを心配してお館様はすぐに部屋にやって来たが、布団に潜り込んだアルの顔は見えず、それにどうやら熟睡しているらしい。
起こしもせず声もかけず、顔も見れずにお館様は部屋をあとにした。
やはり無理がたたっただろうか。人前に出る緊張に耐えられず熱を出したのだろうか。
そう心配しながら、会場に戻った。
アルがいなくてももう十分に進行できる時間だ。
ただ、彼がいないと自分は何もやる気が起こらない。
これからアルに代わって客達をもてなさなければならないというのに、自分も部屋に戻って休みたい気分になってきてしまった。






翌日の仕事に、アルは姿を見せた。
しかし、朝食時は具合が悪いと言って部屋から出てこなかったので、会社に彼が現れた時、お館様もジュールも揃って言葉を失った。

来ると思わなかった人間が来たから、というそれだけではない。
薄い色をした美しい金髪は、肩よりも長く伸ばしていたのだが、その髪がかろうじて耳を覆う程度の長さになっていた。
自分で切ったのだろうか。それにしては、美しく先が整っている。
「アル? どうしたんだい?」
なぜ突然そんなことになったのか理由を察せないお館様は、控えめな口調でアルに尋ねた。
「切りたくなったから。自分でやったら、メアリが綺麗に直してくれた」
メアリは下っ端のメイドだった。
恐らく玄関掃除でも命じられていて、出かけようとするアルに気がつき自ら切ったという髪に目を止め声をかけ直してやったのだろう。
ジュールは何故髪を切ったのか、その理由に思い当たっていた。
やはり、アルの耳にも、パーティーの日の噂話が入っていたらしいな、と。
肩まで髪を延ばしていたアルは年齢よりも若く可愛らしかったが、今では白い首筋がすっきりと伸びているさまがはっきり見てとることができ、どこかなまめかしい。
子供の頃とは違った肉付きの薄いうなじがすらりと覗いている姿に、ジュールは客観的にそう評価した。
これでは、髪が長かった頃よりも下品な噂をされてしまうだろう。
どこか色っぽい、とアルのことを表現していた男達を思い出す。今のアルは、誰とも性交をしたことがない子供とは思えない、いや子供だからこそなのかこの手で汚してやりたくなるほど純粋にこちらを誘う色香がある。
ため息とともにジュールは目を逸らした。

こいつといると、ため息ばかり出る。
そう自覚すると、また深い吐息が出そうになりすぐに呼吸を詰めた。

アルは自分の容姿や醸し出す雰囲気には鈍感であったが、ただ、ジュールの反応には敏感だった。
彼の気を引きたいがための、まなざし、声、しぐさ…無意識のうちに人を誘うような雰囲気を作り出してしまっていたのは、そういうわけだ。
アルも、ジュールも、まだそんなことには気づいていないのだが。



その夜だった。
ジュールとお館様は屋敷での夕食後、二人でグラスを傾けながら相談をしていた。こういう日はジュールは屋敷に泊まることになっている。
話すことはほとんど仕事のことばかりだったが、今日はアルのことであった。いや、アルのことでさえジュールには仕事だ。
アルを選んでレフェリエド家に連れて来たのはジュールなのだから。養子になった後はアルの教育係だ。
お館様は、アルに何か悩みがあるらしいと気づいてはいたが、その内容については一切思い当たらなかった。
当然だ、とジュールはお館様の凡庸な顔を横目で見ながら思う。
この優しい貴族様は、俗っぽいことには全く疎い。
他人が、アルのあの美貌とお館様の溺愛ぶりを見てどのように邪推するかなど、全くわからない人なのだ。
そういう凡庸で鈍いところが気に入って、この家に勤めているのだが。
「ジュール、アルは…大丈夫か? 思春期か?」
「大丈夫でしょう。俺が注意して見ていますし。彼はおとなしいから、ある日突然、何かの感情が爆発してしまわないとも言い切れませんが……」
「そうか、私は何をしたらいいのだろうな」
「構わないでいてやることも必要です。彼はもう一人で立って歩けますしね。少々…世間知らず、ではありますが」
「そうだな」
お館様は苦笑してうつむく。
溺愛しすぎていることは自覚しているのだろう。
見守っているだけというのは辛いはずだ。
「ジュール、アルをよく見ていてやってくれ」
「もちろんですよ」
ここでアルが役立たずになってしまっては、こちらも困る、とは言えなかったが。
ジュールは快諾した。

アルが眠る時間よりも少し前に、彼の部屋を訪れた。
ノックをするとすぐに扉が開き、アルが顔を見せた。どうやら子供の頃からジュールがやって来る足音を聞き分けているらしい。
髪が短い姿は見慣れない。顔をのぞかせたアルを見た瞬間に、ジュールは柄にもなく驚きとは違う高揚で胸がドキリと脈打つのを感じた。
まだ子供っぽさはあるが、美しい青年に見える。髪を切ってしまっただけで、すっかり大人びたようだ。
何故今までそれに気づかなかったかと言えば、長い髪が彼を少女のように幼く見せ、肩や頚の辺りを隠してしまっていたからだ。
しかし、隠すものがなくなって、肩回りなどの華奢なようすが際立ってしまったのは、仕方がない。
「入っていいか」
ジュールが低く問いかけると、アルは無言で身を引いた。
「ブランデーを飲む?」
丸い卓の方へ向いながら問いかけてくるが、ジュールは断った。
「いや、いい。さっきまで飲んでいた」
「……ふーん」

アルは最初に扉を開けた時から、全く目を合わせようとしない。
ジュールがその背中を追いかけて部屋に入っても、こちらを振り向きもしなかった。そしてそのまま、立ち尽くす。
何がそんなに気にいらないんだ、と思わずにはいられない。
ジュールはつかつかと足早に近寄ると、細い肩をつかみこちらを振り向かせた。
自分でも思わぬ力がこもって、あまりの勢いにアルが抗議しようとこちらを振り仰いで口を開く。
ところが、その口からは何の言葉も出てはこなかった。
そのまま口が閉じようとするのが無性に腹立たしく、ジュールはその両の肩を強くつかんだ。バースデーパーティーの時とまるで同じように。
「何が言いたいんだ」
怒鳴る口調ではなかったが、そこはかとない凄味のある声音だった。
そんな声に怯むアルではないが、何故か瞳が揺らいでいる。
と思ううちに、その瞳からぽろりと一粒、涙がこぼれた。
「アル……?」
「ジュール……僕」
「何だ?」
「僕……」
ぐっと言葉を飲もうとしたのは、嗚咽だろうか。
ひくっと肩が揺れ、衝動的にそれを抱き締めてやりたい気になったが、ジュールは腕が勝手に動かぬよう自制した。
涙は次々とあふれてくるわけではない。瞳の中に盛り上がってはいるが、なんとか持ちこたえている。
「僕……お館様の評判を落としてしまうんじゃない?このまま、この家にいたら」
「それは、お前がお館様に抱かれているという噂のせいか?」
「やっぱり…ジュールもそう思う?」
「何だと?」
「僕、お館様とそんな関係じゃないのに」
「そんなこと、俺はよく知っている。アル、そんな噂は気にしなくていい。あんなものは」
「でも僕、お館様の、レフェリエド家の評判を落としてるでしょう。僕がいるから」
「違うよ」
いつまた涙がこぼれるのか気が気ではなくて、ジュールは努めて優しい声を出してみた。
アルの強ばった表情が少しばかり和らぐ。
「でも僕…」
「でもじゃない」


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