短編集 遠い海 5 アートもぎこちない笑みを浮かべる。 「ま、これからは不幸そうなツラしてないで、そうやって笑ってろよ」 「不幸そうなツラって言うなよ!」 「あーあ、そんな乱暴な言葉遣いのオマエを見たら、学院の連中も驚くだろうな」 「えっ。やっぱり、育ちが悪いとか思われちゃうかな」 途端に沈んだ顔になる僕の頭に手が触れた。 アートはくすっと笑って言う。 「逆だろ。可愛いって思うぜ、みんな」 「可愛い……?」 その感想はちょっと複雑だ。 「不幸そうな顔で同情を引いてるって思われてたのは、なんか嫌だな…」 「そんなこと思ってたの俺ぐらいじゃないか。他の奴らはちゃっかりオマエに同情してたから」 「嘘だよ。僕、すっごい陰口叩かれてるの知ってるんだから」 「は? 誰が?」 アートがきょとんとして問う。 僕もきょとんとする。 「みんな…」 「ああ、あいつら?」 アートが言うあいつらというのが誰を指しているのかわからないけど、僕はうなずいた。 僕は皆の寄付金から奨学金を貰っていて、本来なら僕のような卑しい孤児が来るような学校じゃない、って彼らは僕の目の前で言った。 「僕のこと、みんな疎ましがってるって言ってたよ」 「あいつらの嘘だよ。オマエが成績優秀だから妬んでたんだな。きっと。……なんだ? だから、俺のこといつも睨むように見てたのか」 「え、睨んでた?」 「廊下なんかですれ違うと、すげー目で見てただろ。俺のこと嫌いなんだと思ったぜ」 「嫌いじゃないよ……」 「オマエ、学院じゃアイドルだぜ」 「…………ん?」 なんだか今、ありえない言葉を聞いた気がする。 気のせいだったのかな。 うん。そうだよね。 もう一度聞いてみよう。 「なに? 聞こえなかった」 「オマエ、学院ではアイドルだってば。俺の周りの奴らも、オマエの気を引きたい奴ばっかり」 「アイドルって、何?」 僕のことを疎ましがっていたのは、一部の人間だけなんだっていうのは、嬉しい。 でもアイドルって何のこと? 「自覚なしか。その不幸そうな顔は」 「不幸そうって言わないでってば」 「健気に頑張ってる、とか言われてちやほやされて。だからオマエはその顔で同情を引く作戦なのかと思ったぞ」 「ちやほや……?」 そんな記憶はない。 「アートの思い違いだよ。僕……廊下を歩いたら人に避けられたりするんだよ。 食堂では僕の隣の席をみんなで押し付け合ったりしてさ。隣に座りたくなければ遠くに行けばいいんだよ。 それにね、僕のロッカーにたまに知らない人からの手紙が入ってるんだよ。放課後にどこそこに来い、っていう内容で。怖くて行ったことはないけど。 お菓子が入ってたことも何度かあるよ。全部捨ててるけど。なんだろう? 毒とか入ってるのかな? 単に、貧乏だからからかうつもりでお菓子入れてるのかな? あとね、上級生に体育館裏に引っ張って行かれたことも何度かあるよ。ちょっとつき合えって脅されて……怖くて逃げたよ。 それから……」 僕はすがるようにアートに訴える。 いろいろ、いやな思いをして来たけど、僕はそういうことを話せる相手もいなくて。 一度話し出すと、次から次へとエピソードが思い出されて、止まらなくなってしまった。 こうしてみると、ずいぶん、ストレスが溜まっていたのかも知れない。 一通り話すと、かなり胸の内がすっきりした。 アートは真剣な表情で聞いてくれていたけど、僕が口を閉じると、途端にぷっと笑い出す。 「そうか、そんなことがあったのか。オマエ……」 「なんで笑うんだよ!」 「だって、全部オマエの勘違いだよ」 か、勘違い? 勘違いって何が? 一体、何のことを言ってるの? 「僕、ずっとからかわれて……」 「違うって」 「だって、廊下を歩いたら避けられたり食堂で隣の席を…」 同じ話を繰り返そうとしたところを、アートが再び手を延ばして止めた。 口元をアートの手ですっかり覆われてしまう。 なんとなく、鼻息が手のひらに当たるのが恥ずかしくて、息を止めてしまった。 「避けてたのは、オマエを見てたからだと思うけど。見てる対象物からは一定以上の距離を取らないと見えずらいだろ。だから自然と避けちゃうわけだ」 「僕、貧乏だから汚いとか思われて避けられてたんじゃない?」 「俺が見てた限りじゃ、そんな目でオマエを見てた奴はいないけどな。顔が可愛いからだろ」 また可愛いって言われた。 ハイジャック犯にも何度も言われた言葉だ。 小さいからだろうか。 それから、アートは笑いながら、僕の「勘違い」について話してくれた。 僕にはとても信じられない話だったけど。 歩きながら話していると、いつの間にか、寮の方へ向かっていた。 山の中の寂しい道を二人で歩いて行く。 「僕、本当に皆に嫌われてたわけじゃないの? 本当に本当?」 「本当」 アートは面倒臭そうに言った。 僕がさっきから何度も同じことを聞くからだ。まともに答えてくれなくなった。 「ねえ、本当に本当? アートの勘違いじゃない?」「本当。勘違いしてたのはオマエ」 「本当?」 「本当」 「でも、さすがのアートでもやっぱり、勘違いすることもあるよね。アートの勘違いなんじゃない?」 「違う」 「本当かな?」 「うるさいぞ」 とうとう、そう言われてしまった。 アートは僕を横目で睨む。 「オマエは卑屈になりすぎなんだよ。それって、やっぱり自分は不幸だと思ってるからなんじゃないのか。うざいんだよ、そういうの」 「うざい…って」 そんな、言われ方……。 僕は一瞬、開けっ放しにしてしまった口を固く閉ざすと、寮に着くまでは二度と開かなかった。 学院の敷地の周囲には鉄柵が張り巡らされている。僕達はそれをよじ登って、やっと学院に帰って来た。 アートと僕は、部屋はかなり離れている。 「じゃあ…」 自分の部屋の方へ、歩き出そうとする。 すると、腕をぐいっと掴まれた。 振り返ると、アートが、 「ちょっと俺の部屋に寄って行けよ」 「えっ」 なんのために? 大体、今はもう深夜零時過ぎ……多分、3時くらいだ。 「アート、もうすぐ朝だよ」 朝になったら点呼がある。でももっと早い時間に起きる生徒だってたくさんいるんだ。 アートの部屋から帰る時、見つかってしまう可能性は大きい。 渋い顔をすると、アートは、じゃあ、と言った。 「じゃあ、俺がオマエの部屋行くから」 「えーっ!」 「ばかっ」 慌ててアートが僕の口を手で塞ぐ。 これで二度目だ。 「静かにしろよっ」 「ご、ごめん」 アートの手がそっと外された。 僕達は周囲をきょろきょろと見回して、明かりがついた部屋がないか確認する。 ……大丈夫みたい。 「はーっ」 「落ち着きがないんだよ、オマエは」 「アートがびっくりすること言うからだろ。僕の部屋に来るなんて駄目だよ」 「なんでだよ。何か隠してるのか?」 「違うよ。だってほんとに、もうすぐ朝になるでしょ? アートが怒られるの嫌なんだよ…」 「俺はかまわないぞ」 「何がだよ。僕はかまうの。じゃ、僕もう部屋に戻るね」 今度はアートに掴まれないように一気に走り出した。 すると、背後から同じ速度で走る足音がする。 驚いて振り返ると、アートがしっかりついて来ていた。 「何してんだよ」 「何って、オマエの部屋に行くんだよ」 「駄目だってば」 「うるさいな。行くったら行くんだよ。とっとと歩けほら」 わ、わがまま! アートは僕の部屋に来てしまった。 「お茶なんか出ないからね」 「わかってるよ。貧乏学生」 「なっ!」 なんてこと言うんだ! と思ったけれど、事実なので言い返すことは出来なかった。 悔しい……。 アートがベッドに座ったので、僕は椅子に座る。 こんなふうに、狭い所で向かい合うのにも慣れてしまったけれど、自分の部屋だと何故か妙に緊張する。 ちょっと前まで、優等生で生徒の憧れの的だったリステ・アートと、同じ部屋に泊まったり飛行機の隣に座ったりしたんだよな、僕。 今ではもう憧れでも何でもないけどね。こんな性格悪い奴。 「おい」 僕が一瞬考えごとに耽っていると、アートが怒ったような声をかけて来た。 「何してんだよ。こっち来い」 「へ?」 アートは手招きをして、その手でベッドをぽんぽんと叩いた。 そこへ来いっていうことか。 なんで? 警戒しながら僕がおそるおそる近づくと、座る前にアートに手を引かれてベッドに倒れ込んだ。 ベッドだから痛くも何ともないけど、でもひどいんじゃないか? 「何すんだ…っ」 声を荒げてアートを仰ぎ見る。 あれ、アートが、やけに近い…… 「んっ」 僕の上に伏せたアートが、僕の口に……口にキスをっ! 一瞬、頭が真っ白になった。 気づいてから焦ってもがこうとしても、いつの間にか手を押さえつけられていて動けない。 アートは僕の唇の上下をそれぞれついばむようにしてから、舌で触れてきた。 生温かい、ぬるりとしたもの。 それが口の中にまで入ってきて、頭は混乱している。それなのに、アートの舌で内側をジュウリンされていると、なぜか気持ち良くて、どうでもよくなってきた。 これって、キス? キスってこういうもの? こんなに気持ちいいものなのか……そっかぁ……。 「ん…ぁっ」 ずいぶん長い時間が過ぎた気がする。やっとアートの舌が出ていくと、僕は自然と変な声が出てしまった。 気づけば口の周りは唾液で濡れていて。 それを拭おうと手を延ばそうとしたけど、やっぱり動かすことは出来なかった。 「アート…」 手を放してほしい。 懇願するように名前を呼ぶと、アートは何か勘違いしたみたいだった。 いきなり、今度は僕の耳に口をつけてきたんだ。 軽く噛まれると鳥肌がたってぞくっとする。でもそれは嫌悪じゃない。 「アート、待ってよ! なんなんだよ!?」 「オマエ、こうでもしないと信じられないんだろ」 「は?」 何が? 「口で言うだけじゃ信じられないんだから、しょうがないだろ」 なんで僕のせいみたいに言われるのか、全然わからない。 アートは片方の手で僕のシャツのボタンを次々と外していく。 それと同時に解放された手で、アートを押しのけようとしたけど、びくともしなかった。 晒された上半身にアートの手が触れる。 優しく撫でられて、また鳥肌がたった。 それからアートの口が、また、僕に触れた。 鎖骨を舌でなぶられて、それから……それから、乳首にも舌が触れる。 恥ずかくて恥ずかしくて耐え難いのに、舌で触れられて僕の口から変な声が出てしまう。 「あっ…あ、やっ、ちょっと!」 いやだ。泣いてるみたいな声。 もっと恥ずかしい。 真っ赤になった僕を、アートが見下ろして笑った。 「恥ずかしいの? でももっと恥ずかしいことしてやるから、安心しな」 何が安心なんだよ! それに、アートの声がやけに優しくて、それもなんだか恥ずかしい。 アートは再び僕の胸に口づけた。 乳首に舌が触れて、くすぐるようにされたり、強くこねられたりする。時々、歯が軽く触れたりもした。 そうされているうちに、何故か胸に切なさがこみあげてくる。いや、下半身もなんだか切ない感じがする。 ぞくぞくして、それから、何だか泣きたいような気分になる。 「アートぉ…」 切ないからもっと触れて欲しくて、名前を呼ぶとアートは優しく僕を抱き締めてきた。 その肩にすがって、アートの首に手を回して抱き締め返す。そうするとさらにアートの腕に力がこもった。 「あ、あぁっ」 その腕のぬくもりの中で、不意に乳首をきゅっと吸われて、今まで以上に声が出た。 「ん、ん…はぁっ、アート…」 何をして欲しいのかわからないのに、名前を呼んでしまう。 アートがおへその周囲をくるりとなめた。 不思議と背中が反り返ってしまう。 アートは僕の腕の中からすり抜けて、どんどん下へ行ってしまう。 それに焦って手を延ばしている間に、ズボンを脱がされていた。さらに、それに焦ってあたふたする間に、下着までも取られてしまう。 寮のお風呂は共同だから、僕は自分のそれが他の生徒より小さいことを知っている。 でもアートはそれを見て、 「可愛い…」 と言って笑った。 そして、やっぱり口で触れてくる。 「やっ、駄目っ」 制止しても止まらない。 口にくわえられて、舌で揉まれると、僕はさっきまでの不思議な切なさの意味を知った。 アートに触れられて、欲情していたんだ……。 性器に触れられると切なさが増す。 でも、自分でするのとは違う感じがする。だって自分でする時は、こんなにも胸が切なくならない。 上半身を起き上がらせて、僕の股間に顔を埋めているアートの頭に抱きついた。 それを、もっとして、っていう意味にとられたんだろう。アートの舌の動きが強くなる。 「あ、う! もう駄目だよ、アートぉっ…」 びくんと腰が揺れた。 アートが僕を離さないように強く腰を抱き締めたから、そのまま口の中に出してしまう。 気持ちいい。 すごく。 荒い息をついて放心していると、アートの口が離れていった。 怒られるのかな。でも怒られるいわれはないよな。 だってアートが自分で口の中に出すように仕向けたんだから。 でも理不尽なアートのことだから、やっぱり怒るのかも。 少しおびえながら、立ち上がったアートを見上げると、無言で再びベッドに押し倒された。今度はすごく優しく、ベッドに横たえられる。 今度は何をする気なんだろう。 足首を掴まれて、僕はおびえた。 嫌な予感がよぎった途端、やっぱり、両足首を持ち上げられた。 「やっ」 声を上げて抵抗する間もない。 両足が僕の頭の横につくくらい、無理やり体を折り曲げられた。そして足を大きく広げられる。 「やだ…」 涙声になってしまう。 アートはかまわず、また僕の股間に口をつけた。さっきとは違う。もっと後ろの方だ。 まさか、まさか? 自分でも体を洗う時にしか触れないような位置に、アートの舌が触れた。 やりすぎだよ! 焦ってもがこうにも、この体勢は体に力が入らない。 「やだ、やっ」 アートは僕のお尻にちゅっとキスをしてから、その間にある窪み舌を差し込んだ。 「うわっ……ぁ」 初めての感覚。 くちゅくちゅと音がしてる。アートの舌が僕の中を出入りしているんだ。 生温いその感触が気持ち良くもある。 でも、むずがゆい感じが強くて、自然と腰をよじってしまった。 もうやめて欲しいような。 もっとして欲しいような。 不思議な感じ……。 アートはずっとそこをなめていた。同時に指が入って来たりもしたけど、思ったより違和感はなかった。舌ですっかり慣れてしまっていたから。 アートの舌と指がやっと出ていった時、僕は再び射精寸前の状態にまでされていた。 アートの手が離れて、僕は両足を降ろす。 腰が痛い。 それに性器がぴくぴく震えちゃっている。 どうすればいいんだろう。アートの目の前で処理したくないし……。 終わったと思って、そんなことを考えていた僕は、目の前でアートが服を脱ぎ出したことに気づいた。 あっという間に上半身が裸。 そして、脱ぎづらそうにズボンと下着をおろす。 アートが何故か焦った手つきでじりじりと脱ぐから、何があったのかと思えば、出てきたアートの性器はすでに僕と同じ状態になっていた。しかも、僕より全然大きいから、服も脱ぎづらいはずだ。ズボンがぴったり押さえこんで辛かったはずなのに。 アートは全裸になると、また僕の足を掴んだ。 ぐいっと足を広げられて、さっきみたいに上に持ち上げられる。 「やだっ! 腰が痛いんだよ。もうやめてよ」 頼むと、アートは少し考える素振りを見せた。 ……けれど。 「顔見ながらしたいから、駄目」 あっさりと却下だ。 そのまま、熱くなって射精を待ってる性器を僕の下半身に押しつけてくる。 何をする気なんだろう。 それに腰が痛くてもう嫌なんだけど……。 「あっ、あ…いた……う、んっ」 ぐいっとアートのそれが、僕の中に入ってきた。 アートはこれがしたかったのか…って今更気づいた。 指とは全然違う、太いものが、抵抗する僕のお尻には構わずにぐいぐいと押し入ってくる。 鈍い痛みと、それよりも強い圧迫感で、涙がこぼれ落ちた。 「あ…」 全部入ったのかな? 太股のあたりに、ふわりと毛の感触。多分、アートの下の毛だ。 と思うと、その様を想像してしまって、すぐに消えてしまいたいような羞恥心が沸いてきた。 僕は大きく足を広げて上に持ち上げられて、アートと下半身がぴったり重なっているんだ。そしてアートのが、僕の中に……。 考えてしまって、中にあるそれの感触がさらにリアルになった。 この熱くて、太くて、どくどくいってるものが、アートの……なんだ。 「やっ、あぁっ、あっ、抜いて…アートっ」 お腹の中が、アートのもののせいでどくどくいってる。 その鼓動を感じる。 それしか、感じられない。 アートが腰を引いた。ずるずると抜けていく感じがよくわかる。 「あぁ…」 抜けていく。 良かった。 アートのものは、出る途中で止まった。先っぽの膨らんだ部分で引っかかったのかな? そう思った途端、それが、また奥の方へ入ってきた。 「な、なにするの……!?」 「まだ抜かない」 「まだって…」 アートが腰を前後に揺すり始めた。 「ひっ!」 そこを突かれると、何故か性器がひくひくする。 「そこ、やぁっ…やだって、あっ、あぁ、ん!」 アートが何度もそこを突くように腰を動かすから、僕の性器からまた白いのが出た。今度は、僕の胸の上に。 アートは止まらない。また下半身が切なくなってくる。 頭が混乱し始めた。 「いやっ、もう…」 「何がいや?」 何が嫌なんだろう? 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