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短編集
隣のあなた(18禁)
「亨さん!」
聞き覚えのない声で呼ばれ、亨は振り返った。
そこに立っていたのは、やはり見覚えのない青年だ。美青年だった。亨には縁のないような。
美青年は甘い声で再び亨を呼んだ。
「亨さん。……でしょ?」
「そうですが」
明らかに年下の相手に、敬語で答えてしまう。
青年は笑みをこぼした。
「俺のこと、覚えてます?」
「いや……」
面識があったのか、とやや驚いて答えると、青年はかすかに眉を動かした。
「覚えてないんだ?」
「はい。どこかで?」
「うん。あのね……亨さん、俺に興味ない?」
「え?」
「うーん、俺にっていうよりね、俺の身体に、興味、ない?」
確信犯的な淫乱な笑みを浮かべて、青年の指が彼自身の腰から腹を辿って胸までをすぅっと撫で上げる。
思わず亨の目でその指の動きを辿って、青年の顔を見上げると、タイミングを計ったようにちらりと赤い舌がのぞいて、淡い色の唇をぺろりとなめた。
あからさまに、誘われている。
「ね、あの夜を、思い出したくなった?」
青年の言葉に、亨は後をついて行ってしまった。

実際のところ「あの夜」に全く覚えがない。
風呂上がりの青年が白い肌を堂々と晒した姿を見ても、全く思い出す気配がない。デジャヴュすら。
それでも、唇を合わせて、舌を絡めた時から、相性がいいとわかったから、彼を抱いた。

照彦は、亨のことを探していた。
会社の場所は知っていたから、サラリーマンの終業時刻になるとその近辺をうろついた。
残業や外回りで、会えないこともあるだろう。
それは覚悟していたので、一週間待って会えなければ、諦めようと思っていた。
しかし。
一週間、待ち伏せしてみても会えなかった。
 そして。
諦めることなんて出来なかった。
亨にもう一度会いたいと思い、また次の週も会社の周りをうろついた。今週中に会えなければ、会社に乗り込んでやる、と決意して。
果たして、2週間目の金曜日、照彦は亨を見いだすことが出来た。

会いたかった人に抱かれる。
それがどんな気持ちがするものか、期待していた。
でも亨はウブそうだったから、照彦が手取り足取りしてあげるつもりだった。
だが、実際には違った。
「肌がきれいだ」
「乳首見ながら言うなよ」
亨の手はゆっくりと胸をさすっている。
指が乳首に触れるたび、照彦はじれったい思いをしていた。
「ねぇ…早く」
「ん?」
「いっぱい、いじめて…」
語尾がかすれた。亨の唇が笑いを刻む。
「俺も早く触れたい……いいんだな? いっぱいいじめても」
「いっぱい、して」
きゅぅっと指が乳首をしめあげてきた。
「あっ」
「いいんだね?」
「いいよ。あっ、あっ」
なめられて声が出る。
亨の舌はいやらしい動きで、照彦を視覚から刺激した。
亨のペニスをくわえようと照彦がベッドに屈むと、
「こっち」
と腰を引かれた。
亨は寝転がると、自分の顔の上に照彦の腰が来るように設定した。
「なめてくれるなら、この体勢でして?」
「いいよ」
もちろん歓迎だ。
バスローブをかきわけて濃い陰毛の下から、亨のペニスを取り出す。
まだ反応を見せていないそれを、じっくりと口に含んでいった。舌をうごめかせながら、奥まで入れる。少しふくらんできた。
その時亨も同じように照彦のペニスを口に入れた。 口腔で強く擦られて、照彦は腰を振る。
「う、うぅんっ」
口に入れたまま呻いた。
気分良く軽快に亨のペニスを口でしごき始める。
陰嚢も手で弄んだ。てのひらで転がすようにもみこむと、そこもどんどん堅くなっていく。
我慢汁があふれていて、その粘りを使ってペニス全体を必死にしごき上げると、もう口の中に根元まで収まらない程になっていた。
その時には照彦も亨の口の中で限界近くまではりつめていた。
「やらしい」
ぼそりと亨が呟く。同時に、割れ目に爪をたてて擦られた。
「うあっ、あッ、あん」
「あふれてきたよ。気持ちいい?」
「いいよっ」
答えながら照彦も目の前の亨のものを強く手が締め付ける。
くびれに舌を這わせて、先っぽを親指で円を描くように擦った。
「ん…」
背後から亨の声が聴こえてきて、興奮する。
「あふぁ…あ…んんっ」
夢中になって舌を這わす。
と、ぬるりとしたものが照彦のペニスに触れてきた。それが陰嚢にまで塗りたくられる。ローションだ。
「あっ、あっ」
「あえぐにはまだ早いよ」
ぬるり、と亨の指が、中に入ってきた。
きゅうっと括約筋が締まって、亨の指を締め付けてしまう。それでも、ローションのおかげでぐいぐいと奥まで侵入してきた。
「あっ、あん、そこがいいっ」
亨の指がいいポイントを素通りして奥の方をまさぐろうとするので、照彦は焦って止めた。
「ここ?」
中で、指が鈎状に曲げられた。
「んっ…違うよ、もっと…手前の…」
「ここ?」
「うぁんっ、違うっ、今、今ちょっとだけかすったぁ」
「ん? どこかな?」
「意地悪っ」
ただ指が中を行き来するだけでも気持ち良いが、一番気持ちいいポイントをわざと刺激しないようにしているとしか思えない。亨の指は絶妙なところをかすめてくる。
照彦はじれったくて腰をよじった。
その勢いで亨の指が、前立腺を擦った。
「ああんっ!」
「ここ、なんだね?」
「そう、そこぉっ」
ローションが足され、亨が指を動かすたびにぐちょぐちょと音がたった。
それだけで興奮してしまう。
溢れたローションが陰嚢を伝う。ペニスの先から、先走りと透明なローションが混じり合って亨の顔に落ちた。
「亨さんっ、もっとぉ」
「ここだろ? ね? いいかい?」
「いいっ、イイ……あっ、ああんっ」
亨は面白がるかのように、今度は執拗にそこを責めてくる。
連続して射精感に襲われ、照彦は腰が砕けてしまった。
「ひどいっ、あぅっ」
まだイケないのに、もう何度もイッたかのように腰が痺れている。
「欲しい、入れてっ、亨さんの…これ」
後ろを責められながら、照彦がずっと握っていた亨のペニスは、痴態に煽られたかのように堅くなって先走りをたらしていた。
「……俺の見てるだけでこんなに?」
ぬちょ、と先走りを指ですくって竿にぬりたくる。
「これ、欲しいよ……」
「今、あげるよ」
今度は照彦はベッドの上で仰向けになった。
太股を自分で抱え持つ。
そのいやらしい格好を見た亨に、わざと口を半開きにして言った。
「早く欲しいんだもん……俺がこうして足持ってるから、ね、早く亨さんの…それ……」
「これか?」
「うん。熱くて太いの、俺の尻に…」
亨が自らのペニスを支え持ち、照彦のいやらしい穴にあてがった。
熱い先端が触れて、期待のために照彦はぞくぞくしていた。
けれどそれは中に入ろうとして、ぬるんと滑って照彦のペニスに押し当てられる。
「あんっ、またぁ。意地悪」
ぐにゅぐにゅと亨の先端が、陰嚢を揉みまわして遊ぶ。
「や、ぁ」
早く欲しいのに、絶対にわざと入れなかったのに違いない。
照彦は手を延ばして、己の穴に指をもぐらせた。
「う…んっ、早く欲しいよ。もうこんなに、ほぐれてるのに」
「いやらしくパクパクしてるな」
「だってもう、中が痙攣しちゃって止まらない…」
「気持ちよさそうな穴だ」
亨の目は、じっくりと照彦の穴を見つめていた。
自分の穴をいじくる照彦の指が出入りして、ローションが糸を引いて次々とベッドへ染みを作る。同時にペニスも我慢の限界で震えていた。
「俺も限界だ」
呟いて、やっと亨はペニスの先っぽを照彦の中に押し込んだ。
「う、んっ」
その状態でさらにローションを垂らして、それから一気に奥まで押し込んだ。
熱いものが、入ってくる。
内側を擦り上げられて、照彦は悲鳴をあげた。
「あうっ、ああ、あっ、はぅっ、ん!」
「あー…」
待ちに待った熱いペニス。それにえぐられただけで、達してしまった。
亨にペニスをしごかれて、痙攣しながら精液が数度飛び散った。
「あ、はぅっ、はぁっ」
荒い息もおさまらぬうちに、亨は腰を使い始めた。
奥まで入れたまま腰を揺らすだけだが、イッたばかりで奥を刺激され、また照彦の棒は堅くなり始めていた。
「はぁっ、あっあ」
イキっぱなしのような顔をして、照彦も腰を揺らす。
と、彼のリズムを崩すように亨は今度は一気に引いて一気に奥まで叩きつけてきた。
ずんっと奥に響く乱暴な注挿。
ぐちゅ、ずちゅ、と激しい音がしている。
「照彦の中は、すごく淫乱だ」
「あっ、んっ、は」
「締め付けて、離さない。そんなに好きか?」
「好きっ、あふぁっ、あっ、亨さんのちんぽ…気持ちイイんだもんっ」
どろどろに溶けている。
自分のアソコがあさましく彼を締め付けていることなど自覚していた。
亨は的確にイイところを擦りあげてくる。
ペニスの先を、きゅっと指で擦られ。
「あっ、あ」
全身が痙攣した。特に、中が。
「く、う」
亨のペニスから放たれた熱いものが、内側を強く刺激する。
いったばかりだというのに、照彦はまた、ひくひくと震えて達してしまった。
「後ろだけでイケるんだね。いい身体だ…」
「あ…亨さん」
いたずらに亨が腰を振ると、また欲しくて自らいい所に当てようと蠢かしてしまう。
亨は一度引き抜くと、照彦をうつぶせにさせた。
白い尻を持ち上げて、穴にまた立ち上がった熱いペニスを押し付ける。
「早く…」
「ああ」
ぐ、と入れた。
「あ、はぅ…ん」
腰をよじる照彦は鮮烈に淫らだ。
二人は、何時間もそうして繋がっていた。


夜が明け、照彦が目を覚ます。
そこにあったのは、亨の寝顔。
やっと手に入れた。
照彦は、そっと彼の髪に触れた。
「ん…朝?」
「朝っていうか……」
時計を見ると、とっくに昼だった。
「寝たの朝だったから。もう12時過ぎたよ」
「そうか。あのー……ところで、俺はやっぱり君に会った記憶がないんだけど」
「ふぅん」
照彦の表情が消える。
やはり、記憶にないなんて言わなければ良かっただろうかと、亨が後悔した時。
「会ったことはないよ」
照彦の口からあっさりともらされた真実に、我が耳を疑った。
「え?」
「俺がね、一方的に見てたの」

亨がいつも行くバーで、いつも照彦は彼を見ていた。
ストイックな雰囲気にたまらなくそそられて、彼の知り合いらしいバーテンに声をかけ、名前を教えてもらったのだ。
その後、バーテンがくれた名刺を頼りにストーカーをした。

そのことを話すと、亨はやはり驚いた顔をした。
「だって……話したこともないのに」
「でも好きになったんだもん。欲しかったんだ、あなたが」
照彦は笑った。
もし彼でなければ、気持ち悪いストーカーだと思うだろう。
けれど。
「……ごめん。亨さん、怒った?」
「いいや。俺も、君のこと好きになっちゃったから、仕方無いね」
「え」
「俺も君が欲しい」
「……」
照彦は何やら複雑な顔をしている。
「どうした?」
「そんな……うまい話があるわけ」
「照彦が気に入ったよ。だから……付き合おうとか言わないけど、いろいろ教えてくれないか? 連絡先とか」
「うん。俺も気に入った……普段はストイックなのに、エッチの時、あんなにいやらしいなんて」
くすくすと照彦は笑った。
「照彦はいつでもあんなにいやらしい顔してるのか?」
「ちがうよ」
がばっと起き上がる。
照彦は亨の上に被いかぶさった。

「亨さんの前でだけだよ」

 にっこり笑って、教えてあげた。



***終***



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