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短編集
俺と彼の関係
「好きになった。付き合ってくれ」
セックスフレンドにそう告白されたのは、俺達が体の関係を持って1ケ月も経た
ない頃だった。
相手はサラリーマンで、俺よりずっと年上。10才もだ。
俺にとっては、初めての相手で、他の奴よりちょっと特別な存在。でも好きな
わけじゃなかった。
相手は男。俺も男。そして俺はまだ高校一年生。
相手は分別ある大人で、俺より経験豊富だから、信じていいんだと思った。
何も知らない俺が、会って1ケ月で高校生相手に何言ってるんだろうこのおっさ
ん、と思っても、間違ってるのは俺の方だと思えた。
だから。
別に嫌いじゃないし、体の相性も多分いいと思えた、その男に、俺は返事をし
た。
いいよ、って。

それから俺達の関係は、恋人同士ということになった。

俺が男とヤれるタイプなんだと気づいたのは、中学生の時。それまでは、女も
男もそんなに興味はなかった。
ただ、周囲の同級生達がどんどん男臭くなっていくと、妙にそれが気になる俺
がいたんだ。
高校一年でちょっと大人になった気で18才って偽って渋谷でクラブに入ろうと
して補導されかけて、水元(みなもと)さんに助けられた。
「すいません、保護者です」って言ってくれて、俺は助かったんだ。でも、その
時すでに水元さんは俺を落とす気だったんだって。
その後、保護者が一緒なら大丈夫って言って、静かなバーでお酒を飲ませてく
れて、いろいろ話をして、誘われた。話をしているうちに、男が好きな奴は話を
してればわかるって言われて。
少しお酒の匂いがする水元さんはかっこよくて、誘いに乗ってホテルに行って
、翌日の日曜は二人でご飯を食べたり、カフェでまた少し話をしたりして別れた


彼は水元樹(いつき)という名前。
彼と別れた翌々日、月曜日。
携帯電話に見知らぬ名前の着信履歴。出てみたら彼だった。
これっきりはいやだから、夜、ホテルで目を盗んで俺の携帯を見て、それから
自分の名前と電話番号を登録したんだって教えてくれた。
それが妙に嬉しかったのは、やっぱり俺も、彼とこれっきりは嫌だと思ったか
らだろう。

「総介、彼女できたの?」
クラスメートにあっさり見抜かれて、俺は打ち途中のメールを放り出して携帯
電話をバチンと閉じた。
「違うよ」
「えー? すっげぇにやついてるぞ今日。さては昨日の日曜日できたんだな? 彼
女が!」
「えーお前に彼女!? いいなぁ!」
「どこの誰?」
「どうやって知り合ったんだよっ」
5、6人が群がって来て、俺は逃げ道を塞がれる前に立ち上がった。
「違うって言ってんだろ!」
言い捨てて教室を走り出た。きっと顔は赤かったと思う。
後で思えば、逃げた方がよっぽどやましい。
彼女なんていねぇよって笑って奴らを制することができれば良かった。
俺は彼氏ができて嬉しかったのかな? しかも好きだって言われて付き合い始め
た。
水元さんからのメール見ながら、きっと俺はにやついていたんだ。
『今日会えないか? 平日だけど仕事は早く片付きそうなんで。』
屋上に飛び込んで端っこまで駆けて、俺はすぐ携帯を開いた。
『会えるよ。俺は学校から帰って着替えたら18時くらい』
そう返事をして、ぱたんと閉じる。
この後、教室に戻るのが気まずいなぁ……なんて考えていた。
ぽんっと肩を叩かれて、焦って振り返る。
立っていたのは俺と同じクラスの男。宮城哲司。中学で知り合った奴で、多分
俺達は親友と言っていい。
「て、哲司…」
「みんな騒いでるからさぁ、しばらく教室戻らない方がいいと思うぜ」
「うん…」
「で、彼女できたって、マジ?」
クールに哲司に聞かれた瞬間、びくっとなったのが自分でも良くわかった。
哲司はフェンスに寄り掛かって校庭を見下ろした。
「あのさぁ、多分お前はびっくりすると思うんだけど」
「なんだ?」
「彼女じゃなくて……さ。あのー…」
「彼氏とか?」
あっさり言われて、まじまじと哲司の顔を見た。
哲司は俺を見ない。でも俺の動揺は伝わっていたみたいだ。
「そっか……彼氏ね」
「俺、秘密にしてたんだけど。男でも、い…いけるんだよね」
「そういう奴もいるって」
「でも気持ち悪いだろ? 男子校だし。あ、俺は別に男子校だからここ入ったわけ
じゃねぇよ」
「わかってるよ。高校選んだ時一緒にいたじゃんか」
「だよねぇ」
はは、と薄く笑って、また俺は黙ってしまった。
なんでこんなにあっさりバレちゃうんだろう。俺はちょっぴり落ち込んでいた

いや、ちょっぴりじゃないよ。
すごく落ち込んでいる。
哲司は本当に気にしないのかな。だって親友が男が好きなんだ、親友に彼氏が
出来たんだ、普通はショックじゃないか。わざと平気なふりをしているんだよき
っと。
それを思うと、俺は沈欝になってしまう。
「俺……教室戻るよ。哲司、このこと内緒にな。な、頼むよ」
「わかってるよ」
哲司は肩越しに少しだけ笑った。

俺は水元さんといつまで付き合うのか、漠然としか考えていなかった。
例えば、俺が大学生になったら、きっと同じ学校に好きな人が出来たりして、
俺達は別れるかもな、とか。もしくはバイト先でいい奴が現れるかも。それとも
、飽きちゃって別れたりするのかな。
水元さんは大人だから。俺にすぐ飽きるかも。
または、彼は子供が好きなだけで、俺が高校三年生くらいになって男らしく育
っちゃったら捨てられるかも。
あと、俺が大学生になったら、今とは考え方が変わって、他の奴とも付き合っ
てみたくなるのかも。
そんなことを考えて俺は、不安になるわけじゃないけど少し寂しくなる。やっ
ぱり水元さんのことが少しは好きなんだろう。
でも、別れはもっと早くに来た。大学生になるまで続くなんて考えていた俺が
甘かったんだ。

水元さんに呼び出されて、金曜の夜、俺はまた渋谷まで出た。家や学校から離
れているから、知り合いに会う可能性は低いんだ。だから会う時はたいてい初め
て会った渋谷だ。
冬休みになったらもっと遠い所に二人でデートに行ったりするのかな。
二人で食事に行ってから、初めて会った時にも行ったバーに入った。
会った時から、水元さんは少し変だ。俺に妙に優しい気がする。そんなことを
しなくても、週末に会ったらエッチは絶対するって暗黙の了解になってるのにな
。それとも、俺に何か特別なプレイを要求するつもりとか…。
「あのさぁ」
俺はオレンジジュースのコップを握り締めて、ぎこちなく問いかける。
「何か言いたいことがあるの?」
水元さんは一瞬黙って俺の顔を見た。
その顔を見返した時、俺は気づいてしまった。
彼が言おうとしていたことは、もっと大事なことなんだって。
「総介……すまない」
「えっ?」
「別れよう」
「…!?」
俺は、本当に。
止まって、しまった。

俺達、会って何ケ月?

そう。2ケ月。

付き合って、まだ1ケ月しか経ってない。

なんで?
「俺は結婚することになったんだ」
「お見合い?」
「いや、以前から付き合っている彼女がいる。彼女が、妊娠したんだ」
「……」
「潮時だ。俺は、女であそこまで好きになれるのは彼女だけだ。彼女と結婚しな
かったら、一生誰とも結婚する気にはならないだろう。でもしなきゃならない。
だから彼女とする。すまない、総介。本当に」
俺は何を言ったらいいの?
結婚なんかしなくていいじゃないかって泣くの?
二股かけてたのかよって怒るの?
しょうがないねって笑うの?
何の言葉も浮かんでこない……。俺は、こんなにショックを受けるほど水元さ
んが好きだったらしい。
何も言わない俺に、水元さんはそれ以上、何も言わなかったしリアクションも
求めなかった。
「水元さん……俺のこと、好きだって」
「今でも好きだ。彼女よりも総介のことが」
「本当?」
「本当だ」
顔をあげた。
涙がぼろぼろこぼれてみっともない顔を。
「じゃなんで別れるの。彼女より好きだったら」
「総介…」
「結婚しても付き合おうよ」
考えなくても、簡単に言葉は生まれるものだ。
「結婚しててもいいよ。一児の父でもいいよ。俺の方が好きなら、愛人にして」
「そんなの、お前に悪いだろう。そんな不誠実なこと、俺には」
「彼女がいるのに俺に付き合おうって言ったじゃないか。結婚しても変わらない
よ。俺のことが好きなんだったら、お願い」
「続けたとしても、子供が生まれるまでだよ」
「それでもいいよ」
水元さんは、俺のことをその場で抱き締めてくれた。
「明日になって落ち着けば、総介の気が変わるよ。結婚した男となんて続けられ
ないって」
「…かわんないよ」
ぐすっと鼻をすする。
「変わるよ。そして俺は捨てられるんだ。そんなの、俺には耐えられない。総介
が思うよりずっと俺はお前が好きだから」
「捨てないよ」
「捨てるんだよ。子供が生まれる前に、総介は俺を見限るだろう。俺はそれが恐
い。ごめんな。さ、もう出よう」
泣く俺を連れて、金曜の人通りが多い渋谷を歩く。すぐに裏道に入って人目に
はつかなくなったけれど、俺は泣きっぱなしで、連れ込まれるようにホテルに入
った。
最後の夜だって、俺もわかってた。
だからいつもよりずっと感じてしまったようだ。

「あ、あっ、もぉ…やっ」
とろけるほどなめられて、後ろは疼きが止まんなくなっちゃうほどに指でほぐ
された。ローションをたっぷりどろどろに垂らして、くちゅくちゅと音がして、
声も止まらない。
それから受け入れた水元さんは、俺に入れながらもうはじけそうだった。
体の奥を重いもので突かれ、たくさん擦り上げられた。肩に腕を回してしっか
りつかまっていたのに、衝撃が強くてすべり落ちる。
「あ、あっ、好きだよ…ねぇっ」
「ありがと…んっ」
キスをしながら言った。
一回出しても二人とも全然おさまらない。ベッドにうつぶせにされて初めてバ
ックで犯された。
より深く入ってきて、いい所を突くそれに、俺はあっという間にいかされたけ
ど、それでもずんずんと入ってきて、気絶しそうになった。
頭がぽやーっとして、イきっぱなしだ。
こんなに攻められて嬉しかった。
「こんなによがって…総介」
うなじにキスされた。
「嬉しいよ」
水元さんも同じ気持ちなんだね。
それなら俺、2倍嬉しいよ。

その夜に初めて好きって言った。
でも俺達の関係はその夜で終わりなんだ。
全く連絡が取れなくなるわけじゃないけど、なるべくなら連絡しない方がいい
って言ったのは俺だった。
本当だ。朝になって落ち着いたら、ちょっと考えが変わったみたい。
元セフレの恋人といつまでも仲良くしたら、不倫の関係に落ちる可能性だって
あるんだ。男同士なら特に、妊娠とかの危険もないし。
そんなの悪いから。
「初めて好きって言ってくれて、嬉しかったよ」
「俺も…たくさんしてくれて嬉しかった」
水元さんの頬がちょっと赤くなったようだ。
「はは。俺、水元さんと会えて良かった」
「俺もだ。総介、たまには……たまには連絡をしてくれよ」
寂しそうな水元さんの顔、初めて見た。
でも俺は泣かないって昨夜ベッドで決心したんだ。 好きだから。笑顔だけ覚
えてて。
「じゃあね」


朝帰りのその日、地元の駅で哲司に会った。
「あれー? 哲司じゃん。どっか行くの?」
「あ、いや…」
珍しく目をそらして口ごもる哲司が、すごく怪しい…。
「なんだよ? あ、まさかお前、これから彼女とデートとか?」
「違う!」
「あ、そう」
怒鳴らなくたっていいじゃないか。
俺は自分ちの方へ歩き出した。なぜか哲司がついて来る。
「なに? もしかしてお前もこれから帰るとこ?」
「ああ」
そっか。今日は一人でいたい気分なんだけどな。
哲司とは家が近い。同じ学区内の中学なんだから当然だ。
「なぁ、お前」
家までの距離、半分まで来たところで、少し後ろを歩いていた哲司が言った。
「首、後ろ、キスマークみたいのついてんだけど」
「っ!」
ばっ、と手でおさえる。
おそるおそる振り返ると、哲司は微妙な顔をしていた。
「あーあ。それ、月曜までに消えんのかよ」
「う…」
「ただでさえ、お前の首筋、エロいって言われてんのに、そんな色っぽいキスマ
ークなん…か……」
哲司は言いながら、俺の微妙な視線に気づいたようだ。突然目線が辺りをさま
よい始める。
「お前ら…そんな噂してんの?」
「男子校だから…」
「言い訳になってねぇよ。俺達トモダチだろーが。そんな噂してんなよ」
「友達だって気になるもんは気になるんだよ!」
「男相手に何言ってんだ。キスマーク絶対月曜まで残してやる。んで、お前らに
見せつけてやる!」
ふん、と鼻息荒くして言い返した。
言った後で、自分でも「何言ってんだ?」と思ったけど、ちょっぴり喧嘩腰に
なってる今、もう撤回はできない。
けど哲司の反応もまた、妙なものだった。
「お前をやましー目で見てる連中を、俺が今まで苦労して食い止めてやってたの
によ! お前はさらにそいつらを煽ろうてのかよ! 馬鹿か! 先輩達に体育用具室
に連れ込まれたって抵抗も出来ないヤワなくせにっ」
「誰がヤワだこら!……ん? え、苦労して食い止めてた? は?」
何の話だ?
哲司は黙った。
多分、口が滑ったんだろう。
「やましー目で見てる連中を、哲司が? なんで言わないんだよ。言ってくれよ。
俺、男子校も案外普通なんだなぁって思ってたよ」
「お前、男子校で彼氏捜すつもりか」
「違うって。ただ、お前がそんな苦労してたんなら、俺、悪かったな。何も知ら
なくてさ。ありがとな」
「違う。俺は…言えなかったんだ」
うつむいた哲司は、顔が真っ赤になってた。
「お前のためじゃなくて俺のためにやってたから。中学の時からお前が好きだっ
たから。高校で、絶対他の奴にとられてたまるかって」
「…俺が、好き…」
哲司はくるっときびすを返すと、今度は家とも駅とも違う方へ走り出した。
「おい!」
「頭冷やして帰るからよ! お前はまっすぐ帰れよ! 彼氏とお幸せに!」
「別れたよ!」
「え」
哲司の足が止まった。

「彼氏とは別れたの! 大人の男なんて、もういいんだ。今は俺、心が安らげる親
友みたいな奴に慰められたいなーって思ってるんだけどな」

初めて自分から人を誘った。自分で誘うって、すごくドキドキすることだ。
哲司がゆっくりと、こちらを振り向いた……。


***END***



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