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小説
トワイライト
「柳くん、難しい本読んでるんだね」
「あぁ…。読む物が無くてな」
「それで五輪の書を読む中学生もいないと思う。真田くんくらいしか……」
「ははっ、言えてるな」
朝練の前の部室
真田くんはもう外で素振りをしていて
部室には私と柳くんしかいない
柳くんのジャージの上に置いてあった本を見て私はつい言ってしまった



「これは……?」
「それは……」
私が手にしたのは「テニスのきそ」と、いう柳くんにしてはかなり拙い字での表紙に書かれていたノート
柳くんにしては珍しく言い淀んでいた
「柳くんにもこんな時期あったんだよね、当たり前だけど」
「……俺を何だと思ってるんだ」
「ううん。安心したの」
「安心?」
「うん」
「そうか……」


柳くんはそのまま私が持っていたノートを取ってパラパラとめくった
その顔は徐々に微笑みを浮かびはじめる


「小学生の頃、仲良かった奴と作ったノートだ」
「そうなんだ…」
「あぁ。毎日毎日飽きるまでテニスをして、そのあと二人で反省がてらこのノートを挟んで語り合った。懐かしいな…」
柳くんはノートの向こうの友達を見ながら言っていた
きっとホントの親友なんだ
その時のことを知らない私でもそう思えるくらい柳くんの言葉は温かい



「その人とは?」
「俺がこっちに引っ越して以来会っていない。引っ越すことすら伝えなかった」
「なん……で?」
「何でだろうな…。言ってしまうと別れてしまう気がしたのかもな。別れを受け入れられなかったのかもしれない」
柳くんはそう言うと私の方を見た
ノートをパタン、と閉じた
「それ、見てもいい?」
「ん?あぁ……別に構わない」
私は柳くんからノートをもらってパラパラとめくった

書いてある字は拙くて二人で書いたのだろう
柳くんの字じゃない字もあった


「そいつに渡して行こう、と思ったんだがな。持ってきてしまった」














何度も読んだんだろうクシャクシャになったページ
二人で色々書き込んでよれよれのページ
そして書いてあった「優勝!!」の文字











「何でお前が泣く」
私はノートで顔を隠していたけど柳くんは見事言い当てた
「……ダブルスだった……んだ」
「あぁ、でもあいつはシングルスプレイヤーだよ。間違いない」
「そうなの?」
「あぁ、そうだ。でも、あいつとやったダブルスは負けた試合も勝った試合も悔しかった試合も嬉しかった試合も全部楽しかったよ」
柳くんは遠くを見ながら言う
その目線は向かい合っている親友を見ているようだ



「また、ダブルス出来たらいいね」
「そうだな……。また、テニスをしたいな」
柳くんはそのままポンポン、と私の頭を撫でて「そろそろ行かないと弦一郎が怒るぞ」と部室を出ていく
私は涙を拭いて鏡で顔を確認して部室を出る
遠くからブンちゃん達の声も聞こえる
また今日も始まろうとしている合図だ

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あきゅろす。
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