Short Novels Visit of love-EPISODE1-(東方project) 〜大学内・Star boxs〜 「はぁ〜・・・・」 特別講義とやらも終わり、俺は一人大学の中にある『Star boxs』という店の中で溜息を漏らした。 特別という割には、ただただ講義の時間が長いだけでいつもとやってる事に大差は無かった。 結構楽しみにしていた分、少し残念だ。 だけど、この溜息は別にこれだけが理由だけではない。 もう一つの理由――それは昨日の夜に出会った少女のことだ。 ――『射命丸文』、自称『鴉天狗』。 いや、目の前で射命丸文の背中から翼を出した場面を見てしまった以上、自称ではなく認めなくてはいけないのだろう。 それにしても、俺のイメージとして持ってた『天狗』から大分かけ離れている。 まず女だし? ・・・・まぁ、ここまでだったら夢とかで片付けて終わりにするだろう俺だったら。 現実主義だし。 だけど、『こっちの世界のネタを集める為の拠点が欲しかったんです。貴方の家に居候してもいいですか?』と来た。 俺としては『鴉天狗』なんて伝説でしか聞いた事のない存在を自分の家にあがり込ませるなんてのは少しばかり気が引けたものの、承諾する事にした。 いや、可愛いのはジャスティスだよ。うん。 つまり、俺の部屋には今美少女な鴉天狗がいるわけだ。 「・・・・・この暑さでやられたのかな、俺」 先程注文したキャラメルマキアートを飲みつつ、そう呟く。 現実だと分かっていても、こんな状況疑いたくなるだろう? というか、いまも正気を保ててるのが自分でも不思議でしょうがない。 昨日までは全く平凡な日常を過ごしていたのに、どうしてこうなったんだろう? 「ミッチー、一人で何してんの?」 俺が一人で隅っこの方の席で、色々と物思いにふけっていると不意に声をかけられた。 その声は俺に取って聞き慣れたもので、振り返るまでもなくソイツが誰か分かった。 「怜か。何のようだ?」 「何って、ミッチーの姿が見えたからご一緒しようかと思って」 そう言って『えへへ』と人懐っこい笑みを浮かべるのは、俺の幼なじみである塚本怜(つかもとれい)。 ちなみに『ミッチー』というあだ名は小学生の頃からであり、それは俺の名前が『三木千尋(みつきちひろ)』だからであるらしい。 まぁ、つまりコイツは未だに俺をガキ扱いしてる訳だ。 もう大学生なんだからいい加減止めて欲しい。 「隣、座っても良いかな?」 「勝手にしろ」 「じゃあ勝手にするね」 怜が自分の持ってた湯気が出てるカップをテーブルに置いて、俺の隣に座る。 こんなクソ暑い中、コイツはホットを飲むらしい。 「よく飲めるよなホットとか」 「そう?でも、暑い時には暑いものを食べたりするといいって言わない?」 「だからと言って素で実行するのかお前は」 俺のツッコミに怜が『えへへー』と笑みを零す。 いや、褒めてないから。 「それで?こんな所でミッチーは何してたの?」 「いや、別に」 「悩み事がありますーって顔してるよ?眉間に皺寄り過ぎ」 怜が、笑顔で眉間をつんと指で突つく。 む、そんなに眉間に皺寄ってたか。 「もう一度訊くけど、何か悩み事あるの?」 「・・・・・ああ。実はな」 幼なじみだから、という訳ではないがコイツになら話し手も良いかも知れない。 そう思って俺は―― 「――今日の夕飯を何にするか考えてたんだ」 悩んでたもう一つの方を口にした。 いや、流石に天狗の方は言えんだろ? つーか、言ったら俺がイタい人扱いされる。 「夕飯?ミッチーってそういうの気にする人だっけ?」 怜が本当に不思議そうに尋ねて来る。 心外な。 「一日三食、一食たりとも同じ味のカップラーメンは食べない人だぞ俺は」 「ゴメン。どう反応して良いか分かんないんだけど」 「グルメだろう?」 「いや、それはグルメとは言わないと思う」 「なん、だと・・・・?」 怜の容赦ない一言が突き刺さる。 くっ!分かっていたさ! 自分がグルメじゃない事くらい、百も承知さ!! でも、人ってのは見栄を張りたいものだろ? 俺も例外に漏れず、そういう人間なのさ! 「ふ〜ん、夕飯かぁ・・・・また私が作りに行ってあげよっか?」 「い、いや・・・・それはちょっと」 怜の料理は美味くて、作りに来てくれるんだったら願ったり何だが、生憎と今の俺の部屋には天狗がいる。 しかもどう考えても年下の少女だし、下手したら俺が変態扱いされるかもしれん。 そんな俺の心の葛藤とは裏腹に、怜が不思議そうに首を傾げる。 「何で?前作った時はおいしって言ってたのに」 「いや、確かに美味いかったんだけどよ。ほら、俺だってもう少しで社会人になるわけだし?自炊でもしようかなって思ってさ」 我ながら説得力の無い嘘である。 怜の奴もジト目で俺を見つめ続ける。 よせやい、照れるじゃないか。 「・・・・・・・・はぁ。まぁいいや。ミッチーが隠し事をしてるのはバレバレだけど、今回は目を瞑っておいてあげよう」 「・・・・悪い」 「んーん。ミッチーだって隠し事の一つや二つくらいはあるに決まってるよ。でも、ミッチーが話してくれるのを待ってたりするんだよ?」 「ああ。俺も色々と整理が付いたら話す事にするよ」 俺がそう言うと、『ならば良し』と怜が笑顔で頷いた。 こういう時ばかりは、怜のさっぱりした性格に感謝した。 ・・・・・次、こんな話をする時までには問題が解決してるといいんだがな。 家で待っているであろう天狗に思いを馳せつつ、小さく溜息を吐いた。 〜自室〜 今日の大学での予定していた講義を終え、俺は自分の部屋のまで来ていた。 両手には近くのスーパーで買った色んな食材を詰め込んだ袋を持って。 いくら少女のような外見でも天狗は天狗だし、インスタントなんての出したら罰が当たるかも知れない。 ・・・・・・いや、だからといって俺の作った物も気に入られるかどうかは分からないが。 まぁでも、誠意ぐらいは買ってくれるだろう・・・・たぶん。 「おい、帰ったぞー」 このアパートにインターホンなんて物は無く、トントンとドアをノックする。 本来なら中に射命丸がいて、何らかのアクションを起こしても良いんだが――反応がない。 不思議に思ってドアノブを手を掛けてみると鍵はかかってはいない。 「おーい。射命丸ー?いるかー?」 中に向かって呼びかけながら入っていくが、やはり反応はない。 外は薄暗くなっており電気を付けないと中の様子がさっぱり分からない。 電気を付けて辺りを見回すが――射命丸の姿は無い。 「・・・・やっぱ、昨日のアレは夢だったのか」 妙にはっきりとその内容をはっきりと覚えているが、まぁそういうこともあるのだろう。 元々あんまり信じてなかった俺はそう割り切る事にして、手元の袋へと目を動かす。 さて・・・この買ってきた食材はどう―― 「たっだいま戻りましたー!!」 「・・・・・・」 するかなと思ってると、後ろの方から元気のよい声が聞こえてきた。 ・・・・・どうやら夢では無かったらしい。 気付かれない様溜息を吐いて、振り返る。 「どこに行ってたんだ?鍵も閉めずに」 自分で言うのもなんだが、父親のような言い方だ。 射命丸は『いやー』と照れたように笑って、懐からカメラを取り出す。 「ちょっとそこまで写真を撮りにいってたんです。こっちの世界は珍しい物ばかりで、好奇心をくすぐられてしまいますよ〜」 「・・・・そうかい」 そう言って本当に楽しそうに笑う射命丸に、思わず俺も笑みが溢れてしまう。 天狗というのも、あまり人間と大差は無いのかも知れない。 「それより腹減っただろ?何食いたい?」 「えっとですねぇ・・・」 「ま、何言われてもカレーになるんだなこれが」 「訊いた意味無いじゃないですか!?・・・・カレーというのがどういうのかは知りませんけど」 うむ、やはりカレーというものは知らないらしい。 よかったよかった・・・・俺が作れる物で。 そんな事を思いつつ俺は料理の準備を始める。 「んじゃ、射命丸はあっちに座っててくれ。できたら持ってくから」 「了解しました!!」 そう言うや否や、次の瞬間には射命丸の姿は既に隣の食卓にあった。 その瞳は好奇心に満ちあふれ、『カレー』というものがどういう物なのか待ちきれないと言った様子だ。 久しぶりに作るが・・・・・ま、ご期待に添えられる様頑張りますかね。 「これがカレーですか!」 食卓に置いたカレーを興味深そうに見つめ、懐から取り出したカメラでパシャリ。 俺はそんな射命丸を見て、小さく笑みが溢れてしまった。 自分では『鴉』と言っていたが、こうしてる所を見てると犬に見えなくもない。 「『文文。新聞』のネタも大分集まってきましたし、もしかしたら過去で一番いい出来かもしれませんね〜」 「へー、新聞を作ってんのか」 「はい♪出来上がったら千尋さんにも一部差し上げますよ!」 「ん。そんじゃ、できあがるのを楽しみにしてますかね」 そう言って、射命丸に向き合うように座る。 俺の答えに満足したのか、射命丸は笑みを浮かべつつ、『はい』と頷いた。 「ん〜・・・・それにしても、このカレーというのはおいしそうですね!私、もうお腹ぺこぺこです」 「そうだな。んじゃ、食べるか」 「はい!」 自分の場所に座り直して両手を合わせ、 「いただきます」 「いただきま〜す!」 お決まりのかけ声と共に俺達は夕食を食べ始めた。 まぁでも、取り敢えず俺は食べずに射命丸が食べた時のリアクションでも見ようかと思う。 そんな事には気付いていない射命丸はスプーンでカレーをすくって、そのまま一口食べる。 「ん〜〜〜♪今までに食べた事ない位おいし――からっ!?」 射命丸の手からスプーンがカシャーンという音を立てて落ち、本人はというとあわあわと辺りを何かを求めて探しまわる。 俺は思わずくつくつと笑みを零しながら、元々持って来ていたお茶をコップに注いで射命丸に渡した。 射命丸はそれを受け取ると一気に飲み干し、胸に手を置いて息を整え始めた。 「美味いか?」 そんな射命丸にそう尋ねてみた。 辛い、とか聞こえたような気がしないでもないが、もしかしたら聞き間違いだったのかも知れん。 「辛過ぎますよこれ!?私を殺す気ですか!」 射命丸が、があっと吠えた。 どうやら『辛い』というのは聞き間違いではなかったらしい。 いや、分かってたけどね? 「俺としてはちょうど良いくらいの辛さなんだが、ダメか?」 「ダメです!!」 射命丸が涙目で必死で訴えかけてきた。 んー、やっぱ俺の味覚おかしいのかなぁ? 怜の奴にも辛過ぎて食べれないとか言われたし。 「・・・・そっか。悪いな、食えないもん作っちまって」 「え?あ、いや、その・・・・」 もう少し射命丸の事考えるべきだったな。 失敗、か。 「新しいの何か作るから待って――」 「い、いえ!大丈夫です!!食べますよ!食べますとも!!」 俺が射命丸の皿を持って立ち上がろうとすると、その腕を射命丸が掴んで必死に引き留めた。 「無理する事は無いんだぞ?」 「無理なんかしてません!ほらおいし――からっ!?」 二口目を食べた射命丸から先程と同じ台詞漏れる――が、次の瞬間、射命丸は『おいしいですよ』と無理矢理笑みを作った。 無理しなくても良いのに、という気持ち反面、そこまでして俺の作った物を食べてくれている事が少しばかり嬉しかった。 俺はそんな気持ちを胸に、俺の作ったカレーと百面相しながら闘いを続ける射命丸をしばし眺めていた。 「あの、昨日も言いましたけど本当に良いんですか?」 「ん?ああ、構わないよ」 布団から顔だけ出して、隣で毛布一枚で寝る俺に申し訳無さそうに尋ねる射命丸に、そう答える。 飯も食い終わり、風呂も近くの銭湯で入って、今日やるべき事で残しているのは寝るだけだ。 「ですが、やっぱり悪いですよ。この部屋の主の千尋さんが毛布で、居候の私が布団で寝るなんて」 一応、射命丸にも居候という自覚はあったらしい。 「流石の俺も天狗様を地べたで寝かして、自分がぬくぬくと寝てられる程図太くないんでね」 「むぅ〜・・・でも、天狗と言いましても祟りがあるーとかはありませんよ?」 「ま、そうだとしても。射命丸みたいな可愛い子の前くらい、男として俺にも格好つけさせてくれよ」 と、冗談まじりで言ってみた。 ちなみに最後に、普段はボロボロな分なと付け加えようか迷ったが、止めておいた。 じゃないと、何か自分が惨めに思えてしまう。 「・・・・・・そ、そうです、か」 珍しく歯切れが悪く小さくそう呟きながら、射命丸の顔が布団の中にゆっくりと引っ込んでいく。 心無しか、顔が赤いようにも見えた。 ――ふと、時計を確認してみれば11時を回っていた。 もう寝とかないと、明日絶対起きれないよな・・・・ 「じゃな、射命丸。おやすみ」 「お、おやすみなさいです。千尋さん」 射命丸の返事を聞き、俺は目を閉じた。 明日は大学も休みだし、何するかね・・・・ そんな事を思っていると、俺はいつの間にか夢の世界へと入り込んでいた。 [*前へ][次へ#] |