[携帯モード] [URL送信]

Short Novels
St.Valentine's Day 〜有馬楓の奮闘記〜(オリジナル) 前編


――バレンタインデー。発音よく言えばヴァレンタインデイ。

また、恋する乙女にとっては『聖戦』とも呼ばれるこの日、2月14日がとうとう来てしまった。
去年までの私だったらそんな日はどうでも良かったし、逆に無くなれば良いなと思っていたくらいだ。

・・・・・・理由はあまり聞かないで欲しいけど。

と、とにかく!
去年まではこの日にはそんな思いがあった私だが、今年は違う。

そう、今年の私には本命が――亮という本命ができたのだから――・・・


















――聖なる日に巻き起こる、一人の乙女の知られざる戦いが今、始まります。


















St.Valentine's Day〜有馬楓の奮闘記〜
















2月14日早朝。
朝が弱い私にしては珍しく、6時に起きる事が出来た。
・・・・・というより、昨日の夜から緊張し続けていて全然眠れなかったというだけなのだけれど。


「ふわぁ・・・・・眠い〜・・・」


大きな欠伸を一つして、寝ぼけた目を擦りながらゆっくりと身体を起こす。
ふと机の方へと目を向ければ、そこには小さな包みが一つ置いてあった。
――そう。昨日、私が徹夜してまで作ったチョコが入っている包みだ。
普段、あまり料理なんてしない私にはチョコ一つ作るだけでも相当時間が掛かってしまったのである。

・・・・まぁでも、自分的には上手く出来たんじゃないかなと思う。


「亮、喜んでくれるかな・・・・?」


ふと、そんなことを思った。

――亮が、私のチョコに喜んでいる様子を思い浮かべて――思わず、顔が熱くなった。
でも、と別の可能性――もし、喜んでくれなかったときの事を思うと、先程と打って変わって気持ちが滅入ってしまう。
亮に限ってそんなことはない、と思うけれど、もしもということがある。
だから、喜んでくれるかな、とか不安にも思ってしまう。

しばらく一人でおそらく百面相しながら『う〜ん』と唸りながら考え込んで――はぁ、と小さく溜息を吐いた。


「楽しいだけじゃないんだね、恋って・・・・・難しいな〜・・・・」


そう呟いて、もう一度――一際大きな溜息を吐いた。





















現在時刻7時17分。
私はいつもより30分程早く登校していた。
私としては二度寝したかったのだけれど、お母さんに二度寝するんだったら学校行きなさい、と言われてしまい渋々ながら家を出たのである。
ちなみに、今日はいつもと違って一人で登校したわけだが、別にあんなこと考えてたから亮と会うのが気まずかったから、というわけではなく(少しはそれもあったけど)、今日は亮が部活の朝練の日なのだ。

私達の高校は近くの高校に比べて部活に力を入れてる傾向があって、特に運動部などではそれが顕著に現れている。

亮の入っているサッカー部の朝練は6時30分から始まって、それからずーっとHRまで休み無しで練習し続けると、風の噂で聞いた。
その話が耳に入った時は、少し亮の身体の事が心配だという気持ちもあったけど、反面亮なら大丈夫という信頼もあった。

えーっと・・・・閑話休題。


「さてと。亮はどこかな〜?」


教室の窓から少し身を乗り出すようにして、グラウンドへ目を落として亮の姿を探し始める。
グラウンドではサッカー部がミニゲームというものをしていて、直ぐにその中から亮の姿を見つけた。
他の人の顔とかはここからじゃよく分からないけど、亮だけははっきりと分かった。
動き、とでも言うのだろうか?
とにかく、昔からずっと一緒に育ってきた私には、グラウンドにいる人の動きから亮を発見することができたのだ。
これは所謂幼なじみとしての特権、とか言う物だろう。

亮はというと、ちょうど今ディフェンダー(亮から教えてもらった)の股下からシュートを撃って見事にそれを決めた所だった。
流石一年生で一軍にベンチ入りしただけあって、先輩達と混じっていても亮は上手いと思う。
そして何よりも――サッカーをしてる時の亮は単純にカッコイイと思う。
もちろん、いつもカッコイイんだけどサッカーをしてる時は尚更だ。
真剣に喜んだり悔しがったりする亮は私と二人きりだとあまり見ないから、そういった表情の亮に思わず――こう、きゅんとしてしまうのだ。
まぁ、こんな風に思ってしまうのも恋をした弱みかな、なんて自分で苦笑いを零した。


「ん〜〜!それじゃ、私も部活に行こっかな〜」


思い切り身体を伸ばして、そう呟く。
私は極端に朝が弱いため、いつもは朝練を欠席しているのだが今日は珍しく朝早く登校できた。
ただ、早く登校してたからといって特に何もする事が無く、手持ち無沙汰になっちゃうなーと思っていた私は、亮の朝練の光景を見てふとそんな事を思い出したのだ。
私の入っている吹奏楽部も例に漏れず練習はとても厳しいのだけれど、それ以外は異常に緩い為に私の事も許されているのである。


「ふわぁ・・・今日は授業中が大変だよ〜・・・」


誰もいない教室で大きな欠伸をしつつそう呟き、高校入って初めての朝練に向かう事にした。





















現在時刻8時27分。
私が部活から帰って来ると、教室はクラスメート達でいっぱいになっていた。
もちろん、私の隣の席には部活帰りで汗だくになっている亮の姿もあった。
ちなみに私の方はというと、朝練に行ったのは良いのだけれど参加している人が少なくただのおしゃべりで終わってしまった。

・・・・・うん。朝練じゃないと言うツッコミは正しいし、先輩曰く朝練を今まで一度もまともにやったことが無いそうな。

それで良いのか吹奏楽部、と朝練がまともに出来ない理由の一端である私がそう思ってみる。


「おはよ〜楓ちゃん」
「あ、うん。おはよう、茜」


私が教室に入ると、そのドアの近くで友達と喋っていた女子――三嶋茜がとびきりのぽやーっとした微笑みを浮かべる。
うん、この笑顔には毎朝癒されるなー、としみじみ思いながら自分の席に戻ろうとすると『待って楓ちゃん』と茜に呼び止められた。


「ん、何?」
「は〜い。どうぞ、楓ちゃ〜ん」


のんびりとした口調と共に、私に小さな小包を差し出す。
それに対して私は首を掲げてしまう。


「なに、これ?」
「バレンタインデーチョコだよ?今日は2月14日バレンタインデー。好きな人にチョコを贈る日だよ?」
「は、はぁ・・・・」


おっとりぽやぽやとした口調と表情だが、何か茜から有無を言わさぬ威圧感を感じて思わず受け取ってしまった。
――それがいけなかった。
苦笑いをしつつ『ありがとう』と言って、その場を立ち去ろうとすると目の前にはいつの間にか別の女子が。
――私の脳裏を中学時代の『悪夢』が掠める。

も、もしかしてこれは・・・・・・・


「あ、あの有馬さん」
「え、えっと、なに、かな?」


恐る恐る尋ねてみると――その女子は、私の目の前にずいと小包を差し出してきた。
私はそれを見た瞬間、思わず顔が引き攣ってしまう。
やっぱり、という思いと、中学時代の『悪夢』が思い出される。
あまり詳しい事は言いたくないが、簡潔に言えばバレンタインデーに女の子から数十単位でチョコを貰ってしまい、それを返すのにお財布がスカスカになってしまったというわけだ。
しかも、それが三年間。
悪夢にならないでなにになると言うのだろうか?

――閑話休題。

まぁ、そういったわけで高校に入ったあまり目立たないようにしようと心がけてたのだが・・・・・何故、こうなってしまうのだろう?
・・・・・まぁ、心当たりがないと言えば嘘になるけど。

そんな事を思いつつ、もしやと思って私の席の方へとちらと目を向けてみる。
――さながら、関所のように数人の女子がその手に大小さまざまな小包を持って私を待ち受けていた。
それを見つめつつ気付かれないように小さく溜息を吐き、その後精一杯の笑顔で待ち受ける女子の小包を受け取って、少々疲労を感じつつ、自分の席へと座った。


「相変わらずモテモテじゃないか、楓」


隣の亮が、にししと笑みを浮かべながらそう話し掛ける。


「うう〜・・・・・絶対楽しんでるでしょ〜?返すの大変なんだよ〜?」
「おーおーモテ自慢か?いいですねー楓さんは。大変おモテになられて」
「む〜・・・・亮のイジワル」


非難めいた声を上げるが、亮には笑って軽くあしらわれてしまった。

だが――何故だろうか、その笑う表情にどこか哀愁が漂っていたのは。
そんな事を思って亮を観察していると、私の瞳が亮の鞄に入っている2つの小包を捉えた。

これってもしかして・・・・・・


「ねぇ、亮。それどうしたの?」


心の動揺を隠しつつ亮に問いかけると、『ん?あぁ』といって苦笑いを浮かべる。


「義理だってさ。いつも世話になってるからーって、貰ったやつ」
「そう・・・・」


なんてことないといった表情を浮かべる亮だが、私はそんな亮とは裏腹に心にもやもやとしたものが取り付いていた。
――綺麗に包装された小包。
少なくとも私――女の子――から見れば、ちょっと義理には見えない。
まぁ、本命となると、それはちょっと何とも言えないけれども。
心の中で『う〜ん』とそんなことを悶々と考えていると、目の前で笑ってる亮に、なんとなーくイラッとした。


「・・・・・亮のヘタレ。バーカ。鈍感」
「ええ!?何でそんなこと言われてんの俺!?」


全く意味が分からない、と驚いた表情を浮かべるが、私はそれを無視して『ふん』とそっぽを向いた。

まったくもう・・・・私の気も知らないで浮かれちゃって。

亮に気付かれないように小さく溜息を漏らす。

それにしても・・・・先越されちゃったかぁ・・・
私が亮に一番にチョコあげたかったのに、な。

私はそれが何よりも、残念で仕方がなかった。
そんな私の想いもつゆ知らず、亮は『?』を大量に頭の上に浮かべて首を傾げていた。




[*前へ][次へ#]

5/9ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!