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Short Novels
Fall of Fall〜Turning red 〜(オリジナル)

         ――赤い。 
  
                                     ――赤い。

               ――紅い。  

                                              ――紅い。
       

――朱(アカ)い。

                       ――朱い。
         



        
――総てのモノが鮮烈な赤という、たった一滴の浸透(センショク)によって象られていく。

嘗て緑であったモノ。
嘗て透き通るような蒼であったモノ。

――それらの総てが紅一色に変わっていく。

それが――秋。










































                                                   Fall of Fall〜Turning red〜

               










































――秋。

食欲、読書、スポーツ、豊穣などなど、秋は様々な顔を持っている。

つまり、、人はそれぞれ違ったイメージを秋に対して持っているのだ。

では、僕のはなんだろうかと考えてみると、不思議と答えることができない。

秋は四季の中で一番好きだし、僕も14年間で様々な秋を体験してきた。

――でも、それのどれもが与えられた秋であり、僕の秋では無かった。

そもそも、何でこんなことを考え始めたのだろうかと思うと、おそらく朝のニュースが原因だろう。

それは『一人一人の秋』というものだ。

内容は、題名のままで人間には必ず一つは誰とも一致しない秋というものがあって、それは貴方にとってはどういうものか、というものだ。

僕はそれを見つけることができないでいて、こうして登校中にも頭を捻らせているのだ。

ちなみに今年は残暑が長く、9月も半ばを過ぎたと言うのに未だに蝉が鳴いていたりする。

夏が少しばかり苦手な僕は、正直言ってもううんざりしているのだが、こればっかりはどうしようもない。


「それにしても、僕の秋かぁ・・・」


蝉の声が辺りを支配する中、僕は一人でそう呟いた。

考えれば考えるほどわからない。

いったい何なんだろう、僕の秋は?

そんなことを思っていると――不意にぽんと肩を叩かれた。


「おっはよ!今日も暑いねー」

「あ、はい。おはようございます」


振り返ると、そこには僕の学校の高等部の先輩である陸奥空(みちのくそら)さんの姿があった。

空さんはワイシャツのボタンを三つまで開け、手でパタパタと自分のほうに風を送って『あーつーいー』と、少々だれ気味に言葉を漏らした。

・・・正直、この季節の空さんは目のやり場に困る。

これも、僕が夏を苦手とする理由の一つだったりする。

なんというか、空さんは美人だしスタイルも良かったりするのだが、あまりにも無防備すぎるのだ。

・・・いや、それはまだ僕が昔のままだという認識だからだろうか?

どっちにしても、少しでもいいから回りの目というものを気にしてほしい。


「んで、どしたのー?何か悩み事?」

「え・・・?ど、どうしてわかったんですか?」

「そりゃ分かるよー。私が何度声を掛けても気づかなかったんだもん」

「す、すみません・・・」


空さんの声が聞こえないくらい考えてたのか僕は・・・


「いいよいいよ。それで、なに考えてたの?」


ぐい、と僕より少々小柄な空さんが僕の顔を覗き込んできて、思わず僕は一歩後ずさってしまった。


「え、ええとですね。ちょっと『自分の秋』っていうものを考えてまして・・・」

「自分の秋?」

「はい。食欲〜とか読書〜とかありますよね?その延長線上で、僕だけの秋っていうのが何かっていうのをずっと考えてたんですよ」

「ふ〜ん。自分だけの秋かぁ・・・うん!面白そうかも!」


『私も考えてみるよ』と、空さんが僕の横に並んでうんうんと唸り始めた。

僕はそれを横目に、再び自分の秋について考え始めた。

・・・・僕だけの秋、かぁ・・・

ふと、空を見上げてみる。
秋だというのに、空がいつもより近いような――そんな気がした。










































――放課後。

今日は部活も無く、一直線に昇降口まで来てみると、そこには周囲をキョロキョロと見渡す空さんの姿があった。

今は下校のピークで昇降口には人がたくさんいる中でも、すぐに空さんを見つけられたのは、やっぱり空さんが一際目立つからなのだろう。


「空さん」


空さんに近づいて、僕がそう声をかけると空さんは『やっと見つけた』と小さく息を漏らした。


「なかなか来ないからもう帰っちゃったのかと思ったよ」

「一応、これでもホームルームが終わってまだ数分も経ってないんですけど・・・」


相変わらずせわしない人だな、と僕は乾いた笑みをこぼす。

空さんはというと寄りかかっていた柱から離れ、


「それじゃ帰ろっか」

「はい」


笑顔と共にそう言い、僕の答えを聞くや否や昇降口の外へと歩き出す。

そんな空さんを追うように、僕も歩き出す。

まぁ、歩幅が違うから、僕は自然と空さんの隣に並んで歩くようになる。


「私は、寂寥ってうのがぴったりだと思うな」

「え?」


僕が空さんの隣に並んだ瞬間、空さんがそう呟いた。

何を言ってるのかわからず気の抜けたような返事をすると、空さんがこちらを向いて、『朝の話』と付け加えた。


「自分の秋、の話ですか?」

「そ。色々考えたんだけどさ、やっぱり私は秋のイメージって言ったら寂しいって感じなんだよね」


うんうん、と自分の言葉を確認するように頷く空さん。


「そう、ですか?」

「ほら、春とか夏ってたくさんの生物や植物が活発に動いてるじゃない?秋が来るとだんだんとその数が減っていって・・・冬にはほとんどいなくなっちゃう。だから、私のイメージとしては『寂寥の序章《プロローグ》』って感じかな」


『ね?』と空さんが微笑んで首をかしげる。

なるほど。

あまり聞いたことは無いけど、そういう秋も確かにあると思う。

空さんの詩的な表現も似合ってて、『寂寥の秋』っていうのはどことなく新鮮な感じがする。

だけど――


「空さんの秋、凄くいいと思います。何となくですけど、空さんの気持ちは僕もわかります。・・・でも」

「自分にはピンとこない?」

「・・・はい」


そう、この秋も僕の秋ではない。

一番近いような気がしないでもないが、あくまでも近いだけでそのものじゃない。

僕がそう言うと空さんは『そっか』と言って、再び視線を前に向けた。

・・・・僕の秋、か。

いったい何なんだろう?

これだけ考えてもわからないなんて・・・


「ねぇ、ちょっと寄り道してもいい?」


突然、空さんがそんな提案をしてきた。


「寄り道?」


僕が訊き返すと、空さんは『うん』と頷いた。

いつも直行で家に帰る空さんが珍しい。


「すぐそこだから。ね?」

「いいですよ。今日は何の予定もありませんし」

「ほんと?それじゃ、行こう!すぐ行こう!」


そう言うと、空さんは踵を返して僕の家がある方向とは反対の方向へと歩き出した。

寄り道ってどこなんだろう・・・?

僕はそんなことを考えつつ、空さんの後をついていった。






























「到着〜」


そう言って、空さんは歩みを止めた。

僕が連れてこられたのは町外れの高い丘。

ここには一度も来た事は無かったが、辺りを見渡してみてもこれといったものは特に無い。

ただ、なだらかな丘が続いているだけだ。

・・・ここに、何の用があるんだろう?


「ん〜〜・・・まだ、ちょっと早いかな?ちょっと待ってて」


僕が不思議に思って首を貸しえていると、空さんはそう言って、小走りでどこかへと行ってしまった。

――空さんを待つこと数分。

僕が所在無げに辺りをふらふらと歩っていると、どこからか空さんの呼ぶ声が聞こえてきた。

何だろう、と思いつつ、空さんの声が聞こえてくる方へと歩いていく。

――と。


「わぁ・・・!」


突如として僕の目に飛び込んできた光景に、感嘆の息を漏らしてしまった。

それは夕陽で真っ赤に染まった世界。

街も海も山も――何もかもが紅に染めれた世界。


「綺麗でしょ?」


背後から空さんの声が聞こえる。

だけど、僕はただただ頷くだけで目の前の光景から目を離せなくなっていた。


「ここはね?私が嫌なことがあったり、失敗したことがあったりした時――ううん、それ以外の時もよく来る場所なんだ。所謂、私のベストプレイスってとこかな」


そう言って、僕の隣に並び立つ空さんは、目の前の光景に負けじと綺麗だった。


「私だけかもしれないけど、秋って赤のイメージがあるんだ。だから、ここに来れば本当の秋じゃなくても、秋っぽい街の姿が見えるから」

「僕もそう思います!緑一色だった山が、真っ赤に染まると秋だなって思いますし」


僕は少し興奮気味に空さんの言葉に同意した。

空さんが少し驚いたように僕を見るが、すぐにくすくすと笑い出した。

僕もちょっと興奮しすぎたかな、と恥ずかしくなってしまった。


「その調子だと、自分の秋っていうのを見つけられたんじゃない?さっきまでと違って、凄く生き生きしてるよ」

「あ・・・はい!」


そう言われてみれば、何となくだけど僕も自分の秋というのがわかったような気がする。

僕が頷くと、空さんも満足そうに『そっか』と頷いた。


「それで?その秋って一体何なのかな?」


空さんが興味津々といった感じで、僕に近づいてくる。

僕は『そうですね』と言って、もう一度眼下の光景を見つめる。

ふと、空を見ると心なしか朝よりも高くなっているように見えた。


「僕の秋。それは多分――」















































――それは取り止めも無い一日。














                                                    一年365日あるうちのたった一日。



















その後、空さんは卒業して現在は大学で植物関係の研究をしていると聞いた。

空さんのことだし、おそらく楽しくやっているんじゃないかと思う。

僕はというとエレベーター方式に高等部に上がり、そして、三年生になった。

やはり、進学校とだけあって今は受験勉強の真っ只中だ。









                                                           そんな中――また、秋がやってくる。








あの光景の感動は、空さんと一緒に見たあの時だけ。


それでも――僕の心にはちゃんと残ってる。


あの真っ赤に輝く街を、山を、海を――そして・・・空さんを。









                                                             今年も――秋がやってくる。





















                                                            あの――『紅い秋』が―――――・・・・・・・  
































〜fin〜


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