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Short Novels
Call my name(涼宮ハルヒの憂鬱)





――――白い雪が舞い降りる。

           
      

















                                  それはとても小さく儚いモノ――











       だけど、それは溶ける事無く積もりに積もり――遂には見上げてしまう程の大きな山になった。




――そう。






        私の彼への想いと同じように。







積もりに積もった彼への大きな想い――だけど、これは報われる事は無い。




何故なら彼は彼女にとって必要な人―――


                                








                          そして、私は彼女を観察するだけの存在―――


              
              決して交わらない二つの存在。




だから私は――――一つだけ。



                           たった一つだけ彼に些細で―――とても大きな願い事をした。

























                        名前を――呼んで欲しい、と。






























                            『Call my name』


































――長門の奴がおかしい。

いや、いつも変わっているといえばそうなのだが、そう言うのではなく。
こう、なんとなくだが違和感を覚えるのだ。
それを長門に聞いてみても『大丈夫』『何でも無い』の一点張り。

・・・・全然大丈夫には見えないんだがな。

そう思った俺は古泉に相談してみたが、いつものにやけ顔を20%増しにして『貴方と長門さんの問題です』とあしらわれるだけだった。

いや、俺と長門のどこが問題なのか分からないから相談してるんだが。
まったく、肝心な時に使えん奴だ。






――と、まぁそんな感じでもう一週間が経ってしまった。

ハルヒは今日もなんやらよく分からない事をやり出し始め、朝比奈さんはそれにあたふたし、古泉はにやけ顔を崩さずイエスマンに徹し、俺は溜息を漏らしながら呆れたように成り行きを見守る。

これはSOS団の日常茶飯事である――だが、長門だけ相変わらず様子がおかしかった。

一人部室の一角でパイプ椅子に座って本を膝に乗せているというスタイルは同じなのだが、先程からその本は一ページも進まずそのままで、どこか心ここに非ずといった感じでずっと窓の外を眺めているのだ。


「・・・・・・・」


長門には窓の外に何かが見えてるのだろうか?
・・・・・・長門だから有り得なくないのが怖い。


「ちょっとキョン!!どこ見てんのよ!!」


と、不意にハルヒの怒号が俺の耳をつんざいた。
視線を長門から元に戻すと、団長様が眉を吊り上げたまま俺を睨みつけていらっしゃった。

よせやい、そんなに見つめられたら照れるじゃないか。

とまぁ、心の中で思ってみたりしてみた。


「ん、なんだハルヒ」
「なんだじゃないわよこのバカキョン!!SOS団のお正月の過ごし方の計画をしてるっていうのによく余所見できるわね」
「SOS団のお正月の過ごし方・・・・・?」


おー、そういやそんな話をしてたな。
今どうなってるか分からんが。

俺のその反応を見て何か読み取れたのか、『はぁ』と溜息を漏らした。

溜息を漏らしたいのは、いつもこっちなんだがな。


「・・・・・まぁ、いいわ。キョンに構ってるのも時間の無駄だし。さっさと進めちゃいましょ」


そう言って、ハルヒは正面に向き直ると『それでねー』と計画の続きをし始めた。
相変わらず古泉はそのにやけ顔を崩さず頷き、朝比奈さんはハルヒから無理難題を出されるたび『ふええええ〜!?』と、そのプリティーなお顔を真っ赤にさせて慌てていた。
・・・・・可愛い。

もとい、ハルヒの相手はこの二人に任せておけばいいだろう。
俺は適当に返事だけしとくか。


「・・・・・・・・・」


それよりも問題なのは長門の方だ。

チラッと再び長門へと視線を移す。
先程のハルヒの怒号を気にした様子も無く、先程と同じスタイルでじっと窓の外を眺めたままだった。


「・・・・・なに?」


――いきなり長門がこちらに振り返った。
その表情は相変わらずの無表情で、言葉も抑揚の無く短いもの――だが、何故だろう?
いつもの長門と変わらない筈なのに、何かが気になった。


「いや、なんでもないよ」
「・・・・・・そう」


長門は数ミクロン程小さく頷きながらそう呟くと、また視線を窓の外へと移してしまった。

う〜む・・・・・何が違うのだろうか?


「かんせ〜〜〜〜〜い!!!」


俺が首を傾げていると、ハルヒの大声が再び俺の耳をつんざいた。
どうやら、SOS団の正月の過ごし方の計画とやらが決まったらしい。

やれやれ・・・・・どうやら、俺に寝正月という選択肢は来年はなさそうだ。

来年の元旦の我が身の多忙ぶりに想いを馳せて溜息を漏らした。


「ほ〜ら!有希もこっちに来る!」
「・・・・・・」


ハルヒは無理矢理長門の手を引いて、俺の目の前の席へと座らせた。
そして、自分は団長席に戻るとバン!と机を叩いて『重大発表よ!!』と嬉しそうに大声をあげた。


「本日、我がSOS団のお正月の過ごし方の計画が決定致しました!それじゃ今からその計画を発表してくから、各自メモなどをしておくように」


『まずは・・・・・』とハルヒは手元の紙を見ながら、正月の計画とやらを喋り始めた。
――と、トントンと俺の肩を隣の古泉が叩いた。


「どうです、長門さんがあのようになっている原因が分かりましたか?」
「残念だがな。お手上げって奴だ」


俺がそう言うと、古泉の奴は口元に笑みを浮かべた。


「ふふ・・・・貴方は結構罪作りな男ですね」
「何がだよ?」
「いえ、何でもありません。ただの超能力者の戯言、とでも取って頂いて結構ですよ」


それだけ言うと、古泉はハルヒの方へと向き直ってしまった。

・・・・気にするな、といわれてもな。
そんな意味深な言い方で、気にしない奴がいるか。

小さく溜息を漏らしながら――ふと、正面の長門へと目を移す。
――と、その時長門と思わず目が合ってしまった。


「・・・・・」
「・・・・・・」


何故か長門から視線を逸らす事が出来ず、見つめ合ったまましばしの沈黙が続く。
それに耐えきれなくなった俺は『あ、あのさ』と、長門に声を掛けてみた。


「・・・・・・なに?」


返ってきた言葉はいつも通り抑揚の無い短い言葉。
だが、それだけに少し安心できた。


「あ、いや・・・・俺達は・・・・その、いつまでこうしてればいいんだ?」
「・・・・・・」
「もしかして・・・・・俺に用があったりするのか?」
「・・・・・・これ」


と、長門が俺に一枚のメモ紙を差し出す。
そこには長門の字で『放課後残って』とだけ書いてあった。

・・・・・放課後?今じゃダメなのか?

そう、目で長門に尋ねてみると、長門はこくんと小さく頷いた。

放課後にしかできない話なのか?
まぁ、いい。一応了解だ、長門。

再び目で長門にそう目で言うと――


「・・・・・・ありがとう」


――長門はそれだけ言い、ハルヒの方へと視線を向けた。
俺もそれに習って、視線をハルヒの方へと向ける。

先程までの話は聞いてなかったが―――どうやら、予想通り慌ただしい正月になりそうだ。
































一通りハルヒが正月の予定をのたまい、所々に俺の修正を加えていき、最終的に全てが決まった頃には空は夕焼けに染まっていた。
時間的にはそれ程遅い訳じゃないが、やはり冬といった所だろう。


「それじゃ、戸締まりとかは任せたからねキョン」
「ああ、じゃあなハルヒ」
「言っとくけど時間に遅れたら罰金だからね!」


ハルヒは俺の事を指差しながらそう言うと、俺の答えも聞かずにさっさと帰ってしまった。

・・・・・言っておくが、俺は一度も集合時間に遅れた事は無いぞ?
そっちが勝手に遅れたとか言ってるだけで。


「僕もこの辺りで。今日は少々機関の方で用事がありましてね」
「用事、ね。機関で忘年会でもやんのか?」
「ええ、そのようなところです。それでは」


忘年会、ね・・・・・・
なんだか機関って思ってたよりファミリーな組織なんだな。

最後にいつも通りの微笑みを浮かべながら部室から出て行く古泉を見つめながら、そんな事を思った。


「キョン君、ファイトです!」
「え、はい?」


いきなり後ろから朝比奈さんに励まされてしまった。
振り返った時に拳をぎゅっと握って顔の前に出している姿は・・・・・とても愛くるしいです。

ほわー、となんだか癒されつつ、俺は笑顔で朝比奈さんのことを見送った。

―――さて、これでSOS団五人のうちハルヒ、古泉、朝比奈さんが帰り、今部室に残っているのは――


「・・・・・・・」


まぁ、当然ながら俺と長門なわけだが。
その長門はというと、俺の正面の位置でじぃっと俺の事を見つめていた。
俺は、取り敢えず長門から視線を外し『はぁ』と溜息を漏らした後、部室のドアを閉めて再び元の位置に戻った。


「それで?放課後残れってことは、俺に何か用があるのか?」
「・・・・・・」


長門は小さく頷くと、ゆったりとした足取りで俺の隣――つまりは古泉の席にちょこんと腰を下ろした。
そして、長門は再び――先程よりも近い位置から上目遣い気味に俺を見つめ――


「貴方に――お願いがある」


そう、切り出した。























〜長門Side〜



「貴方に――お願いがある」


理解不能なエラーコードを全て無視して、私は彼に向かってそう切り出した。
――途端、彼の顔に少しだけ柔らかさが戻り――私の中で理解不能なエラーが再び現れる。

だけど私はそれも無視して、じっと彼を見つめながら答えを待つ。


「いいぜ。なんせ長門の頼みだ。俺に出来る事だったら何でもしてやるよ」
「・・・・・・そう」


そう言って微笑む彼を見て、胸が苦しくなった。

――物理的な傷害は無いのに何故?

私にその答えを今直ぐに出す事は出来なかったが――不思議と心地よかった。


「それで?その願い、とやらは何なんだ?」
「・・・・・」
「・・・・・長門?」


不意に、言葉に詰まってしまった。
彼もそんな私を不思議そうに見つめる。

――願い事。

それがここ最近、私に理解不能なエラーを発生させている原因だろう。
ただ――これを彼に言おうとした瞬間、先程とは比べものにならない程のエラーが私を襲い、流石にそれは無視できずに処理をしたため言えなかったのだ。


「・・・・・大丈夫」


私の事を心配するような瞳で見つめ始めた彼に、そう一言。
そしてもう一度――先程以上に、私自身にプロテクトを掛けて口を開いた。


「私の・・・・・名前を呼んで欲しい」




















〜キョンSide〜


「私の・・・・・名前を呼んで欲しい」


少し様子のおかしい長門からの願い事――
それを聞いた俺は心の中で思わず『はい?』と拍子抜けた声で聞き返してしまった。

今までのパターンから、ハルヒに関する事とかでの頼み事かと思ったんだが・・・・・
まさか自分の事だとはな・・・・・
いや、これも長門が普通の女子高生として近づいてるってことかな、うんうん。

・・・・・しかし、名前ねぇ・・・・


「長門、って言えば良いんじゃないんだよな?」
「・・・・・・」


長門は俺の問いかけに無言で頷いた。

ってことはやっぱ・・・・・・・うわ。

自分が長門の名前を言う所を想像して、自分の頬が赤くなっていくのを感じた。

こ、これはマズいだろ?
つまりは、だ。
俺は長門の事を・・・・・・・・その・・・・・・
・・・・・・ゆ、有希って呼ぶって事なんだろ?
・・・・・む、無理だろ!?今更呼び方を変えるなんて・・・・!!


「・・・・・・嫌?」
「え?い、嫌って事は無いんだが・・・・・その、だな」
「・・・・・・」


長門がじいっと俺の事を見つめる。

・・・・・ああもう!言えば良いんだろ言えば!

気恥ずかしさに頭を掻きながら、長門から視線を逸らしつつ――


「・・・・・ゆ、有希」
「・・・・・・」


小声でそう言った。

は、恥ずかしい・・・・・・・この上なく恥ずかしいぞこれは。

長門はというと、俺がそう言うと同時に俯いてしまっていた。

な、長門さーん?貴方のお望み通り名前を呼びましたけどー?
これでも不満なんですかー?

とか思っていると。


「・・・・・・もう一回」
「え」


まさかのアンコールだった。
長門はまだ俯いたままだが、確かにそう言った。

む、むう・・・・・・もう一度だと?
・・・・・・え、ええい!俺も男だ!
男に二言はねぇっ!


「えーっと・・・・・有希」
「・・・・・・ッ!」


今度は二回目だからか自然と長門の名前を呼ぶ事が出来た。
『うむ、我ながら慣れるのが早い』とか思っていると――突然、長門が俺に抱きついてきた。

って、な、長門サン!?


「・・・・・もう少しこのままでいさせて」
「そ、それはいいんだが・・・・・・」


なんというか、こう・・・・・色々と気になるのだ。
長門の髪の良い香りとか、女子特有の身体の柔らかさ――特に腹部に当たる二つのものの柔らかさ、とか。
ま、結果的に言っちまえば、健全な男子たる俺にはそれが刺激が強過ぎるというわけだ。

ドキドキが・・・・・・止まりません。


「・・・・・・すまない」


長門がそう謝りながら、俺から離れる。

いやいや謝る必要はないぞー?俺もその・・・・・な?
良い思いさせてもらって―――ってええい!何を考えているか俺は!
フッ・・・・認めたくない物だな、若さ故の過ちというものは。


「・・・・・・」


そんな事を考えて、動揺を隠そうとしている中、長門はとはというと先程のように俯いたまま黙りこくってしまっていた。
そしてそのまま沈黙――。
その数秒の沈黙は俺には数分にも数時間にも感じられ、気まずさからあちらこちらへと視線を泳がせた。


「あー、その・・・・・」
「・・・・貴方の言いたい事は分かる。だけど・・・・私にも分からない」


俺の言葉を遮ってそう言いながら、顔を上げた長門の表情は無表情ではあったが、微かにその瞳の奥に戸惑いや困惑などといったような感情が見て取れた。
そんな長門を見て――俺は思わず笑みが溢れてしまった。
長門はというと、何故俺が笑ったのか理解できないのか『?』と小さく首を傾げた。


「悪い。お前が分からなくて、俺が分かってるっていう状況がなんだか妙な感じでな」
「・・・・・・この理解不能のエラーを貴方は知っている?」
「ああ。知ってるも何も、それはエラーなんてものじゃなくて『感情』って奴なんだよ」


そう言って、俺は長門の頭をポンと叩いた。
すると、不思議そうに長門はゆっくりと自分の右手を頭の上に乗せた。


「・・・・また発生した」
「だろうな。お前は今、頭に俺の手を乗せられて何らかの感情を持ったって事だ」


そして、その感情がマイナスでない事を俺は祈るばかりである。
長門は『これが・・・・感情』と呟いて、しばらく俯いて黙りこくった後小さく頷いて顔を上げた。


「ありがとう。貴方のお陰」
「ん、そうかい。お前の力になれて、俺としてもほっとしたよ」
「・・・・そう」


俺の言葉に短く相槌を打つと、長門は自分の席へと戻っていった。
見れば日も大分沈んでしまい既に辺りは暗くなってきてしまっている。
冬だなぁ、なんて思いつつ俺も自分の帰り支度を始めた。

・・・・・・よし、これでオッケーっと。

鞄を持ち立ち上がると、既に横には帰り支度を終えた長門が立っていた。

この暗さじゃ、いくら長門がなんとかーとかいう宇宙人でも見た目はかなり良いし、何があるか分からん。
流石に一人で帰らせるのは不安だ。

と、言う訳で俺は長門に一つ提案をする事にした。


「今日は一緒に帰るか?」
「・・・・・・」


長門は無言で俺の提案に頷く。
いつも通りの反応に――先程の長門の姿を重ね合わせる。

・・・・・・長門の奴も大分人間らしくなってきたもんだ。

そんな事を思いながら、俺は立ち上がって部室の扉に手を掛けた。


「それじゃ、さっさと帰るか長門――」
「・・・・・」


部室の扉のノブに手を掛けようとした瞬間、クイッと制服が引っ張られた。
俺が振り返ってみれば、長門が(身長的関係から)俺を上目遣いで見つめていた。


「・・・・違う」
「違う?違うって何が?」
「・・・・・名前」
「・・・・え?」
「私の事は――名前で呼んで」


長門がその澄んだ瞳で俺をじいっと見つめる。
様々な葛藤が俺を支配し、視線を長門に合わせられなくなりあちらこちらへと泳がせてしまう。
だが、長門の透き通った瞳に見つめられているのを意識できない訳も無く、俺は諦めたように溜息を吐いた。


「帰ろうぜ――有希」
「――分かった」


俺の制服から手を離して、こくりと頷く長門。
その表情は――どこか、微笑んでいたような気がした。































―――彼と彼女が結ばれるのは決定事項。




                              その間に私の入る隙間は無い。


                ――――それはとても悲しい事。  



だけどもう一つ――



                           ――もう一つだけ願う事が許されるならば。






















                    どうかこの時間が――一秒でも長く続きますように――・・・・・・・・




    











                             fin.





ED『SELECT?』(長門有希:1st キャラクターソング)



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