Novel ただ、君を想う(3) 階段を上がり、部屋の前まで来た時、変に付け加える様に三井が言った。 「とりあえず、今、家に誰もいねぇから」 「・・・・・」 ガチャ 「お邪魔します」 あの頃と変わらぬ風景が、そこにはあった。 そんな些細なことがどうしようもないくらいに嬉しくて、木暮は思わず笑みを零した。 「・・・大したモンじゃねぇけど」 そう言って慣れない手付きで2人分のお茶を用意した三井が部屋に戻り、腰を下ろした。 「・・・・・・・」 妙な沈黙が続いた。 「・・・あのさ」 再び口を開いたのは偶然か、2人同時だった。 「・・・何?」 「お前こそ、何だよ」 「イヤ、三井言いなよ」 「・・・・・・」 変にお互い譲り合ってしまい、一向に会話が進まない。 「・・・っ、おっかし」 そして2人は顔を見合わせ、笑った。 ひとしきり笑い終わったあと、三井は仕切り直すように一呼吸間を置いて、言った。 「俺、部に戻りたいんだ」 あぁ、このひとことを一体どれ程待ち望んだことだろう。 次の瞬間、一筋の涙が木暮の頬を伝っていた。 突然の木暮の涙に、ぎょっとしたように三井は慌てた。 →Next [前へ][次へ] [戻る] |