Novel ただ、君を想う(2) 三井はいつだって、不意打ちで木暮の心を揺らすのが得意だ。 「・・・三井」 木暮は、今までにもう何度と呟いたか判らない三井の名前を口に出した。 けれど、今度はちゃんと受話器越しの三井に届く。 もう、届かない想いに涙することも、気持ちを押し殺すことも、しなくていい。 「どうしたんだ?こんな時間に・・・」 木暮は涙声になりそうなのを、必死に堪えて平静を装った。 「・・・木暮?あのさ、今から会えねぇかな・・・」 やっぱり三井は不意打ちの名人だ、木暮はそう思いながらも頷いた。 「・・・いいよ。」 三井の家へは、1年生だった時に一度だけ行ったことがある。 「迎えに行く」と言った三井の申し出を断って、木暮は懐かしい記憶を辿って道を歩いた。 「確か、ここは右だったはず・・・」 角を曲がると、記憶と変わらず三井の自宅であるマンションはそこにあり、その入口の前に三井がいた。 「・・・おはよう」 木暮の存在に気付き、顔を上げた三井にまだ慣れない口調で挨拶をした。 三井は、三井らしくない少し泣きそうな顔で微笑んだ。 →Next [前へ][次へ] [戻る] |