無邪気な王子
「お母さんっ!お母さん!!」
いくら揺さぶっても
いくら呼んでも
お母さんが目を覚ます事はなくて
「…………あ‥‥」
夢中で気付かなかった
お母さんは真っ赤に染まっていて
私の手や服も、お母さんの血で汚れていた
「……っ ……あ…」
先程まで心臓が動いていた事を分からせるかのように生暖かいそれ
私はわけがわからなくて、涙も出てこない
そして聞こえてきたのは
「しししっ…… ししししっ」
不気味な笑い声
「…」
何……?
誰……?
どうして、笑ってるの……?
どうして、そんな無邪気に笑ってるの……?
「それ、アンタの母親?」
「!」
城塀のそのまた上
バルコニーから金髪の、私とあまり年が変わらない少年が覗いていた
無邪気に笑うあの笑みの怖さから目が離せない
「アナタが…やったの?」
「そ、オレがやったの♪」
「そん、なっ……」
「しししっ、いいね、その恐怖に怯えた顔」
何…この人……
「オレ、そういう顔だぁいすき。ししっ」
「……………どう、して……お母さんが……」
「邪魔だったんだからに決まってんじゃん」
「邪魔……?」
「オレの視界内で掃除やってたの。庭でね」
それだけ……?
理性が…何かの線が、私の中で切れた
邪魔だったから?庭の掃除してただけなのに?
「もうそれ、用済みだから捨てといて。最後の親孝行しろよな。ししっ、オレって優しー」
「ふざけんなっ!!!!」
とうとう私は叫んでしまった
親孝行?優しい?誰が…!?
「どうしてそんな簡単に人を殺しちゃうの!!貴方、自分がした罪の重大さ、わかってるんですか!!?」
「………は?」
「っ!!」
どんっといっきに暗い声に少し後ろに下がってしまい
それを狙ったかのように、私の目の前に降り立った
「それ、オレに言ってんの?」
「…」
「誰に口利いてるかわかってる?」
「きゃ…!」
ぐっと顎だけ前に引っ張られる
急にだったから思わず目を瞑ってしまって、
この少年が片手に持っていた物を、気付かずにいた
けれど、この人が発した言葉に、耳を疑った
「オレ、"王子"だぜ?」
「お、うじ……?」
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