VOICE
序章 09
「私、貴女の声、好きよ?まだ一曲しか聞いてないからイメージ掴み難いと思うけど、バンドの曲に貴女の声が合うと思うの」
返答に困り、次第に目を伏せてしまった馨に、隣席の苺が声を上擦らせながら言った。
…先程から彼女の視線はずっと気になっていた。至る箇所に穴が空きそうな程、脇目も振らず向けられた眼差しの意図に、その時は全く気付かなかったが。
「俺達、カオルちゃんの声を聴いた上で、一緒にバンドやりたいんだって!マジで良い声してるし、カオルちゃん入ってくれたら心強いっちゅうか、華が増えるし!」
苺に賛同する様に真人が身を乗り出す。
「ボーカルは勿論、必要となったら、その形見のギターにも活躍して欲しいしな」
郁斗が馨の背後の壁に立て掛けてあるギターに視線を移す。
「え、ホンマに?」
正直声ばかりを誉められ、ギターのテクニックに関しては敢えて触れないでいたのかと思っていただけに、郁斗の言葉で馨は俄かに期待感を抱き顔を上げた。このバンドでギターも出来るという事は、ギターのテクニックも評価してくれているという事だ。それも、相棒であり、形見のギターで。
「ああ。思い出の詰まった良い物をお蔵入りするなんて勿体無いだろ」
期待と不安の入り雑じった馨の問いに、郁斗は先刻とは打って変わって柔和な表情を浮かべ、頷く。
「女の子が入ってくれると、私も嬉しいな。ほら、男臭いバンドだから…」
心無しか苺は頬を赤らめ、馨の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
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