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VOICE
序章 08
「作曲の殆どは俺がやってるんだけど、兎に角妥協はしたくないし、オクターブ下げたくもない。だからミドルボイスでの限界突破に挑むとこの有り様。アンタの声なら勿論今の音出せるだろうし、何より透明感があるからすんなり耳に入って来る。だけど胸を打つ奥深い声をしてる」

郁斗はイヤホンを外して、馨に手渡すと、裏のなさそうな様子で馨の声を絶賛した。

「せやけど…。そりゃ無理はしとるんやなとは思うけど、ちゃんと出てるやん」
「妥協はしたくないから」

遠慮がちな馨の意見に、郁斗は即答した。要するに、融通効かないのね。
そうは言われても、やはり技術面での引目は払拭出来ない。

「別に無理にとは言いませんがね。貴女が兄さんの代役を務めるに値する人間だと、本人が言うだけで、後は貴女次第だ」

困惑する馨の心情を察してか、澪が穏やかな口調でフォローした。しかし、今の馨にはその言葉が「引目を感じ、自信がないなら降りろ」と咎め立てされている様に感じ、更に口を閉ざしてしまった。
勿論これは兄弟ならではのバランスの取れた掛け合いでもある。妥協を赦さず、自我を貫く郁斗に対し、高飛車だが気転が利き、相手の感情に敏感な澪は純粋に馨に拒否権を与えるべく差し伸べた救いの手だった。
しかし、初対面で、且つ押しに弱い馨にとって、現状をプラスに転換させる事が出来なかった。

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