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VOICE
序章 07
「何や、プロの音源聴いとるみたいやな…」

馨は思わずそう溢していた。澪みたく自負出来なかった自分のギターのテクニックや声を評価され、内心舞い上がっていた自分が恥ずかしくなって来た。
彼等は本心から自身を誉めてくれたのだろうか。ただ、自分達の腕前をひけらかしたいが故だけに巧く口裏を合わせていただけなのではないだろうかとさえ思え、自然と表情は曇り、それ以上の言葉が出なかった。

「確かに、テクニックに関しては各々自信を持ってる。ただ…」

郁斗は鼻にかけているでもない冷静な口調で言いながらも、語尾に溜め息を交え、不満そうな表情を浮かべ、馨の右の耳から優しくイヤホンを取ると、それを自身の左耳に寄せながらプレーヤーを操作した。先刻の曲がまた最初からリピートされ、暫く沈黙のまま共に聴いていた。

「…此処からだ」

郁斗の合図に、馨は横目にその表情を盗み見した。端正な顔立ちに伏し目がちな郁斗の姿に思わず胸を高鳴らせながらも、左耳に意識を集中させる。
一際盛り上がりを見せるサビの部分、郁斗の歌声が変わった。自身の声域の許容範囲を上回り、無理に声を張り上げているらしく、時折掠れている。男声にしてはミドルボイスでの声域は高い方だが、かなり苦しそうに聞こえる。

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あきゅろす。
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