[携帯モード] [URL送信]

VOICE
序章 02
それというのも、2人が出会った当初の馨の発言が苺を変えたのだ。
3年前、上京したばかりの馨は、休日になれば毎週1人路上で弾き語りをしていた。その生まれ持つ恵まれた容姿と、深みのある低く特徴的な声で、地元ではそれなりに名の知れた存在だったが、友人も土地勘もない、1人として自分の事を知らない場所。緊張と不安を抱えながら、馨はひたすら歌い続けた。
振り返る人は居れど、立ち止まる人は数える程度。声を掛けて来たかと思えば、酔っ払いの冷やかしやナンパ。
抱いていた理想は、所詮理想に過ぎない…。馨は孤独に耐え続ける日々を過ごしていた。

上京して2ヶ月が経った頃、馨がいつもの場所に腰を下ろし、ケースからギターを取り出してチューニングをしている所を、4人の若い男女が通り過ぎようとしていた。年は馨とそう変わらない位のグループは、思い思いに話し、笑い合っている。
その中でも一際背の高い青年が、進行方向を変え、視界に映った馨の方へと真っ直ぐ歩み寄っていった。チューニングを終え、緊張を解そうと黒い空を仰ぎ見、深呼吸しようと顔を上げた馨と、青年の視線がぶつかった。クールというよりも強面の青年は、茶化す様な素振りを見せず、馨を見下ろしている。馨は視線を外せず、ポカンと口を開いたまま、青年を静止していた。

「それ、良いギターだな」

やや長めの黒髪を整髪料で綺麗にセットし、細いデザイナーズスーツに身を包んだ青年は、冷たい印象を与える細い目でギターのヘッドを捉え、掠れた声を薄く開いた唇から漏らす様に告げた。一歩間違えればホストとも見れるその容姿で、まさかギターのメーカーについて問われるとは思っておらず、馨は暫し呆気に取られてしまった。

「Morris、知らないで使ってる訳じゃないだろ?」
「え、あ…まぁ…。従兄の形見なんよ」
「関西の子?こっち来たばかりだ?」
「うん、4月に」
「ふぅん…。何か弾いてみてよ」

[BACK][NEXT]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!