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VOICE
序章 10
「決まり、かな」

腕を組み、我が子を見る親の様な表情を浮かべ静観していた澪が、馨に返答を求める。澪もまた、馨の加入を快く思っている事が、その表情から読み取れる。
周りに気圧された訳ではない。たった僅少の時間で受けた彼等の印象はかなり良い。人間的にも、仲間としても、彼等に深く関わりたいと思えた。

「…うちの力が何処迄役に立つんかは判らへんけど、お願いします!」

馨は4人の顔を見渡してから、勢い良く頭を下げた。その拍子に、テーブルに置かれたグラスに額を強打してしまった。何とも巧い展開だ。固い物同士がぶつかり合う、鈍い音が店内に響き、馨の患部には鈍い痛みが走った。

「ッター!!」

痛みと羞恥心に顔を真っ赤にさせ、馨は額に手を当て叫んだ。

「大丈夫か?」

郁斗は心配そうに顔を覗き込みながらも、落ち着いた口調で判り切った事を訊く。

「ハハハッ、カオルちゃんって意外と天然だね!」

人の心配を他所に、真人は腹を抱えて爆笑している。

「あ〜ぁ、綺麗な顔なんだから大事にしないと」

澪は苦笑いを浮かべながら、冷たいおしぼりを差し出す。

「オデコ冷やさなきゃ!」

苺はそう言って自身がオーダーしたホットティーを額に当てようとする。

「って、今度は火傷さす気か!」

視界に飛び込む湯気の立ったカップに、馨は痛みも忘れ、すかさずツッコミを入れる。

「苺もかなりの天然だからな」

冷静に苺を分析しつつも、郁斗の視線は心配そうに馨の額にあった。

「天然コンビの誕生だ!よし、今日はカオルちゃんの加入祝いも込めて、今からカラオケ行こ!!」
「ただ単に自分が行きたいだけでしょう?」

最早他人の迷惑も顧みず、真人は満足感に満ちた笑顔で立ち上がった。そこへ澪が刺のある返しをしながらも、席を立つ。そして周囲からの白眼視を浴びながら、駅前のカラオケへと足を向けた。

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あきゅろす。
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