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捨てた己(基山ヒロト)









◆捨てた己(ヒロト視点)




突然のことで俺にはよく分からなかった。

『ヒロト、貴方たちにはこれから戦ってもらいます。私のために戦いなさい。"ジェネシス計画"始動です』


戦う? "ジェネシス計画"?


「強い選手が私には必要なのです。まずは選手の強化育成、その名も"ハイソルジャー計画"。私は復讐したいのです。この憎き世界に…。それにはヒロト、お前が必要なのです」

「……」

世界に復讐…、俺は"父さん"に視線を向けた。
返事が出来ないでいる俺に"父さん"は近寄る。俺の前に来ると足を止め、そして俺の視線と"父さん"の視線が合った。


「ヒロト、この計画に参加してほしいのです」
「あ…でも……俺…」

戸惑っている俺の肩に手をやり"父さん"は語りかけて来る。


「私にはお前が必要です…ヒロト」


…"父さん"が俺を必要としている。
それに俺にとって"父さん"は…−−


「"父さん"、分かったよ。俺…"父さん"について行く。その計画に参加する」

たとえ"ジェネシス計画"がどんな事であろうとも俺は貴方について行くだけ。

それが俺の唯一のできる事。


「ヒロト、お前ならそう言ってくれると思いましたよ。お前の力は私の未来を明るくしてくれる気がします」


"父さん"の嬉しそうな言葉に俺は小さく笑み
「ありがとうございます」とお礼を言う。
そして、ふと思った事を口にしてみる。


「父さん…このことは他の皆には…?」

俺はまず先に晴矢や風介、緑川に砂木沼たちの顔が脳裏に浮かんだ。

「いいえ。このことを知っているのは私とヒロトだけです」

そして"父さん"は言った。
「この事はお前から伝えなさい」
……自分ははたしてこのこと晴矢たちに言えるのか、彼らを巻き込むことになってしまうのではないか…そんな考えが頭の中にぐるぐると駆け巡っている。


「ヒロト、悩んでいるのですか?」

中々答えられないでいる俺に"父さん"は問いかける。

「私に君たちは必要です。それにヒロト、この計画はお前のためでもあるのです」



……俺は−−−−−


「それから、この"ジェネシス計画"を行っていくに従って一つ重大なことがあります。これからは"基山ヒロト"ではなくなります」

「…?どういうことですか……?」

「簡単に言うと"基山ヒロト"という人物がいなくなる、ということです。私が新たなる名前をお前たちに授けます」


「"基山ヒロト"の名ではサッカーをしない、これが条件になります」そう"父さん"に告げられた。
一瞬後ろめたい気持ちが出てきたが、俺…いや、俺たち
おひさま園の皆は"父さん"には逆らったりしないであろう。誰もが"父さん"のことを想い従っているのだ。
俺もそのうちの一人…。


「うん…。俺はもう決めたんだ。"父さん"のためなら何だってする。だから俺はもう迷わない」


俺の言葉に"父さん"はニィと口角を上げた。


「俺は"ジェネシス計画"をもって世界に復讐する…それが"父さん"のためになるのなら…俺は何でもするよ」

「分かりました。ヒロト…いいえ、 あなたはこれからは『グラン』です。ヒロトではなくお前はグランとしてジェネシス計画に参加しなさい」


『グラン』、これからの俺の名前。
この名前を授かった…つまり"基山ヒロト"はもういないのだ。
だって俺は『グラン』になったから…。

「"父さん"から貰った新しい名前、グランの名に誓って俺は強くなってみせる」

「ええ。期待してますよ、…グラン」






俺はこの日から 己を捨てたんだーーーー









since 2012/9/29

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