粉雪 見渡す限りの白い景色。何処までも続く雪原にスパーダは息を飲んだ。 地面に降り積もった雪は柔らかく雪対策をしてない普通の靴ではすぐに足を取られてしまう。寒い上に体力も必要以上に消耗した。 「くそっ」 何処に行きやがった。 スパーダは白い息を吐きながら必死に雪と同じ銀色の髪の少年を探した。 事の発端は雪景色を見ながら鍋を食べようと無茶ぶりをするイリアだった。 無理矢理付き合わされ神待ちの園からテノスに帰る途中、気が付くとルカがはぐれていた。 アンジュがあれだけはぐれるなと言っていたのに。 今頃寒さと心細さで泣いてんのかなアイツ。 「何があっても俺が守るって決めてたのに、くそっ」 チクショウ……指先の感覚がなくなってきやがった。でももう少しだ、もう少しで神待ちの園にたどり着く。 どうせ俺達の名前呼びながら泣いてんだろルカちゃまは。そうに決まってんだ。今助けに、行ってやるからな。 朦朧とする意識で神待ちの園にたどり着いた。 薄暗い遺跡は冷たい風が吹きすさぶ。 「ルカ!居るんだろ、返事しやがれルカ!」 しかし響くのはスパーダの声だけで冷たい風が虚しく吹いている。 居るはずなんだルカがここに。 遺跡の中に入ろうとしたがそれ以上足が動かなかった。軽装で雪原を長時間歩いたせいでスパーダの予想以上の体力を消耗していた。 膝を着きそれでも必死にルカの名前を呼んだが冷たい空気が肺に入りむせた。 「ルカ……何処行きやがった……」 目が霞む。俺はここで……。 「ベルフォルマ!」 見覚えのある黒い影。 「しっかりしろベルフォルマ」 「……おっさん、んで此処にいんだ?」 リカルドはスパーダを抱き抱え苦々しい表情を浮かべた。 「ミルダが行方不明になってお前が飛び出したからな。二重遭難にならないよう追い掛けてきた」 「そうだ……ルカが、ルカが此処に居るはずなんだ。きっと泣いてんだぜ……早く助けてやんねえと」 「そうだな」 冷え切ってろくに上がらない腕を伸ばしてルカを探そうとするスパーダをリカルドは抱きしめた。 「なんだ……おっさん暖かいな」 「ベルフォルマ、いったん宿に戻るぞ。このままではお前の体が持たない」 「でもルカが……」 「お前を宿に連れていった後に俺が探してやる。それとも此処で凍死したいのか」 「ルカ……」 朦朧とした意識のスパーダを背負ってリカルドはテノスに向かった。 宿にはアンジュが心配そうな面持ちで待っていた。エルマーナは落ち着かない様子で足をブラブラさせている。 リカルドは取っていた部屋にスパーダを寝かせた。 「心配しました。ルカ君が居なくなってるのに気が付いて飛び出して行ってしまいましたから」 「全く、後先考えずに行動が餓鬼だな」 「それよりリカルドのおっちゃんがスパーダ兄ちゃんを追い掛けて行ったんは驚いたで」 「二重遭難になってはかなわんからな。ミルダの行方はどうだ」 「まだです。イリアが街の外を探していますけど」 「今度はイリア姉ちゃんがどっか行きそうやわ」 「これ以上遭難者を増やされたくはないな」 急に廊下からどたどたと喧しい足音がして勢い良く部屋のドアが開いた。 息を切らしたイリアがルカの首根っこを抱え部屋に入ってくる。 「ルカ君!」 「ルカ兄ちゃん無事やったやなあ」 「このおたんこルカってば自分で戻って来たのよ!全くお騒がせよね」 「ごめんなさい……迷惑かけちゃって」 「いいのよ。無事で良かったわ」 「ルカ兄ちゃん大変やったんやなあ。髪に雪付いてるし鼻の先擦りむいてんで」 「それはイリアに思いっ切り蹴られちゃったから、」 「迷子になるおたんこルカが悪いのよ!」 「自力で戻って来れるならばベルフォルマが探しに行かなくても良かったな」 「えっ、スパーダが」 「考えも無しに飛び出したからな。体力を消耗して今はそこで寝ている」 「起きたら謝らなくちゃ。許してくれるかな……」 「スパーダだから大丈夫なんじゃない」 「そうねスパーダ君だから」 「そういうものなの?」 スパーダを起こさないようにと理由を付けてルカ達を部屋から出した。リカルドは起きたら知らせるからど部屋に一人残った。 廊下からは騒がしい声とチーズスープの良い匂いが漂う。 「ベルフォルマ起きてたか」 「体が動かねえだけで寝てねえよ。まあルカが戻ってきて良かったぜ」 ルカの無事を知り安心して笑みを零すスパーダ。 「今は休め」 「へいへい」 もぞもぞとリカルドに背を向け布団に包まるスパーダ。 「おっさん」 「なんだ」 「ありがとうな助けてくれて」 「餓鬼の世話をするのが大人の勤めだ。だが今回の行動は感心しないな」 「でもリカルドが助けてるってわかってたから無茶も出来るんだぜ」 「……餓鬼が」 「でも好きなくせにー」 「頭に風穴を空けて一生眠らせてやろうか」 「うっ冗談の通じないおっさんだな」 ルカが無事で良かったぜ。でもリカルドが助けに来てくれて嬉しかったんだよな。 本当にありがとうなおっさん。 リカルドの気配を感じながらスパーダは目を閉じた。 end 前に書いた「雪」のスパーダ視点。 スパーダなら考え無しに飛び出しそうだなと。 |