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春うらら(桐皇)




捏造あり
















青峰たち一年生を迎え、少し経ったころの桐皇学園。

今日も激しい練習を終えて帰り支度をしていると、主将である今吉がポツリと呟いた。


「あー…そや、そろそろアレをやらんとなぁ…」

「アレ?…あぁ、アレな」


部員たちが首を捻る中で、諏佐だけは理解したように笑った。


「アレって何ですか?」


さつきが皆を代表するように尋ねると、今吉は楽しそうに細い目を外に向けた。

穏やかな春の温もりの中、校庭には桜が咲き誇っている。


「花見や」

「え?」

「桐皇学園バスケ部ではな、毎年新入生歓迎の意味で花見をしとるんや」


それを聞いた若松が、元気良く立ち上がった。


「いっすねー花見!今年も去年みたいにパーッと…」


はしゃぐ若松のセリフを遮るように、今吉が若松の頭を抑え込んだ。


「パーッとやるのはええがな若松…あんまり羽目外さんようにのう。誰やった、去年酒持ち込みよって花見禁止にさせかけたのは」

「うぐぐぐぐ…」


床にめり込みそうな勢いで若松の頭をぐりぐりする今吉を止める者はいない。

苦笑いで二人を見つめる部員たちの中で、さつきが手を上げた。


「今吉先輩っ!じゃぁ、私がみんなのお弁当作りますね!」


その言葉を聞いた瞬間、ピシッと空気が凍りついた。

さつきの料理の腕は、皆よーく知っている。

今吉がぎこちない動きで振り向くと、実に嬉しそうに使命に燃えているさつきが目に入った。


(こりゃ嫌とは言えんな…)


ふと視線を動かすと、さつきの後ろでハラハラと成り行きを見守っている一年生に気づいた。
ふと考えてから、にんまりする。


「分かった…頼むわ、桃井。ありがとうな」

「!?」


今吉の言葉に息を呑んだ部員には気づかず、さつきはハイッと良い返事をする。


「…でも、一人じゃ大変やろ」

「?」


さつきがキョトンとすると、今吉はさつきの後ろに声をかけた。


「桜井。お前も手伝ったり」

「えぇっ!!ぼ、僕がですか…!?」


慌てふためく桜井の肩に腕を回し、今吉が囁いた。


「女の子があれだけ張り切っとるのに、嫌やとは言えへんやろ。な、頼むわ桜井。桃井のことサポートしたってや」

「で、でも…」


尚も煮えきらない桜井に、今吉は溜め息をついた。


「そうか…分かった。なら仕方ないな。ワシは心を鬼にして、桃井に『お前の不味い弁当なんて食えんから作るな』と」

「やります!手伝います!!」


今吉のセリフを遮って思わず叫んだ桜井に、周りから歓声が上がった。


「桜井くん」

「はい…っ?」


ビクッとして振り返ると、さつきがニコッと笑って手を差し出してきた。


「よろしくね」

「…はい…こちらこそ…」


その様子を見て、今吉が満足そうに笑った。



















***











―花見当日





天気にも恵まれ、晴れ渡る空の下、花見が開催された。


「よーし、全員に飲み物回ったかー?」

「若松、その手に持ってるのは…」

「ジュースっすよ!」


賑やかに笑い声が広がり、今吉の音頭で乾杯した。


(さぁ、問題の…)


一気にぎこちなくなった空気の中、中心に置かれた大きな重箱に視線が注がれる。

さつきはニコニコとしているが、桜井は何故か魂が抜けたようにぐったりとしていた。


「さぁさぁ!遠慮しないで召し上がって下さい!」


明るく笑うさつきに促され、ゴクリと息を呑みながら諏佐が重箱に手をかける。

ゆっくりと蓋を持ち上げると…











可愛らしく彩られたおかずたちが顔を出した。












「こ、これは…!」


目を丸くする部員たちに、さつきはエッヘンと胸を張った。


(確かに見た目はまとも…だが味は!?)


上級生の無言の圧力で、一人の一年生が恐る恐る箸を口に運んだ。

皆が凝視する中、ゆっくりと飲み込んだ一年生は…微笑んだ。


「美味しい」


さつきが満面の笑みを浮かべ、上級生たちも次々と食べ始めた。


「おっ…ほんとだ、うめぇ!」

「やるなー桃井」

「えへへ、ありがとうございます」


大量に用意された弁当が高校男児たちによって消費されていく中で、今吉が抜け殻と化している桜井の横に腰を下ろした。


「ようやってくれたな桜井。大変やったやろ?」

「………物凄く…」














前日の弁当作りは桜井家で行われた。


『きゃー!!良が、良が女の子をうちに連れてきたわ!どうしよう、お赤飯炊かなくちゃ!』

『わぁ、お兄ちゃん彼女いたんだ!?』

『へぇ…可愛いじゃん、やるなぁ良。兄ちゃん鼻が高いわ』


呆けているさつきの前で好き放題言う家族を追いやって、台所に上がらせる。


『す、すみません桃井さん!ちょっと母さんたちを何とかしてきますから…とりあえず卵焼きを作ってくれますか?』

『うん分かった、任せて!』


未だギャーギャーうるさい家人たちを台所に入って来させないようにして、桜井が戻ると…


『!?…も、桃井さん…それは…?』


異臭を漂わせる緑色の物体をフライパンから皿に移そうとしているさつきが振り返った。


『卵焼きを作ろうとしたんだけど…失敗しちゃった』

(何をどう失敗したらこんな色に!?)


アハハと笑うさつきと、これから作る弁当の量に、桜井は目の前が暗くなりそうになった。




























桜井の話を聴いて、今吉が心底可笑しそうにワハハと笑った。


「そうかそうか、そら大変やったなぁ…」

「ちょっと目を離すと、次の瞬間には恐ろしいことになってて…」


ぐったりとする桜井の前に、紙皿に乗ったおかずが置かれた。


「お疲れだな、桜井。ほら食えよ」

「諏佐先輩…」


諏佐が持ってきてくれたおかずを見つめ、口にする。


「これ…桃井さんが作ったんです」

「おお、ちゃんと卵焼きの味するやんけ」


ふと顔を上げると、部員たちと笑いあっているさつきが目に入った。





「大変だったけど…」






さつきが桜井の視線に気がついて、ぶんぶんと手を振る。




そして、綺麗に笑った。
















いい笑顔(もの)が見れたから、いいや



















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久々の黒バス(^^)

青峰さんはバックレました笑





2012.03.29





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