猫、時々、犬(月+金)
今日の体育の授業はA組とD組合同でテニスらしい。
日差しが燦々と照りつける運動場に、背中がじっとりと汗ばむのを感じながら伊月はテニスコートへと向かった。
テニスはやったことがないだけに興味がある。
「じゃぁ、始めるぞー。とりあえずその場でボール弾ませてみろ。落ちたやつはしゃがめよ」
体育教師の合図と共に、皆が一斉にラケットの上でポンポンとボールを弾ませる。
(意外と、いける…かも)
次々とボールが地面に落ち、しゃがんでいく生徒が続出する中、生来運動音痴ではない方の伊月は順調にボールを弾ませていた、が
「あ」
少し手元が狂ったか
ボールはてんてんと地面を転がっていった。
(こんなもんか)
ふ、と息をついて伊月が地面に座り込み、まだ残っている連中を見やると
「へぇ…」
自然と笑みが溢れる。
流石にまだ残っているのは主にテニス部員だったが、その中に一人、よく知った顔がいた。
「ほっ、ほっ」
リズムよくボールを弾ませているのは小金井だ。
そういえば、あいつは中学時代テニス部だったか。
皆が囃し立てながら残る数人を見守っている。
「頑張れ小金井ー」
「浅野、テニス部だろ。負けんなー」
いかにもどうでもよさそうな声援の中、ついに小金井がボールを落としてしまった。
「あっちゃー」
てんてんと転がっていったボールを拾い、小金井に渡す。
「ほら」
「ありがと伊月!」
「やっぱり上手いな。流石元テニス部」
素直に褒めると、小金井が照れたように笑った。
「やめろよ。大分ブランクあるし…鈍ってる鈍ってる」
言って笑顔で元の場所に戻っていく小金井を、伊月は微笑んで見送った。
***
「んじゃ、次は試合形式なー。テニス部、見本見せてみろ」
指名されたテニス部がコートに立ってラリーをしてみせる。
皆の前でやらされているせいか、動きが少しぎこちない。
「せんせーまだ?」
「もういいじゃん!」
皆の囃し立てに恥ずかしさが限界になったのか、テニス部二人が音を上げる。
「はいはい。んじゃまぁ、後は適当に組んで適当にやってろー」
「なんだよそれー!」
体育教師の適当な授業に苦笑いの抗議が飛ぶが、適当な授業は嫌いではない。
皆それぞれにラケットを持ってペアを組み始めた。
「えーと…」
伊月はキョロキョロと辺りを見渡すと、目当ての人物を見つけた。
「コガ、一緒にやらないか?」
「いいよー!」
ニパッと笑顔を見せると、さながらニャンコのように小金井が駆け寄ってくる。
その辺にいた二人組に声をかけられ、ダブルスで試合をすることになったが、そこは流石に元テニス部。
手加減しているのは分かるのだが、あからさまに経験者の動きで簡単にのしてしまった。
「んだよ小金井。お前経験者かよー」
「へへっ、知らなかっただろ」
まぁ所詮は体育のテニスだ。
負けてもそんなに気にした風もなく、二人は笑って次の対戦相手を探しに行った。
「すごいなコガ」
「だからやめろってー。伊月に褒められるとなんかこそばゆい」
それでも未経験者から見たら、経験者の動きは、それは格好良く見えるもので…
気づいたら伊月は口を開いていた。
「教えてくれないか?」
「え?何を?」
きょとんとする小金井に苦笑する。
「テニス。何かコツとかない?」
「んー…伊月さぁ、ラケットの持ち方変えよっか」
「持ち方か」
「伊月こう持ってるでしょ。それを…」
小金井の指導で、なるほど、確かに打ちやすくなった。
試しに小金井と軽く打ち合ってみると、満足顔でOKを貰えた。
「うん。いい感じ!」
「けっこう楽しいな、テニスも」
「だろ?」
小金井が嬉しそうに笑う。
今はバスケ部だが、テニスももちろん好きなのだろう。
「にしても何か変な感じだな。俺が伊月に教えるなんて」
「そうか?」
「そーだよ!いつも伊月が俺に教えてくれるんじゃん」
確かに小金井はよく伊月にバスケを教わりに来た。
同学年に教えを乞うのに抵抗を感じない奴だから、元々の運動神経も手伝って伸びるのに時間はかからなかった。
「はは…じゃぁ今日はいつもと立場が逆転だな。ご指導よろしく頼むよ、小金井先生」
「伊月、からかってるだろー!」
顔を赤くしてキャンキャン噛み付いてくる小金井は、今度はワンコのようだ。
まったく…本当にコガはいじりがいがあるんだから
とは、
(もちろん言わないけど)
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そういえば水戸部もD組だったの、すっかり忘れてました(笑)
ごめんよ水戸部^^
2012.10.1
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