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何がきっかけというわけでもない
気づいたら目で追っていて
(あ…)
朝、昇降口でその横顔を見つけて心臓が跳ね上がる。
上履きに履き替えている高橋に、思わず歩みが止まってしまった。
このまま行ったら間違いなく鉢合わせる…
「いーづき!おはよ!」
「わあっ!?」
唐突に背後から衝撃と共に小金井の過激な挨拶が飛んできた。
「何止まっちゃってんの?早く行こーぜ!」
「あ、あぁ…」
ぎこちなく足を向けると、高橋が二人に気がついたように顔を上げた。
「おっはよー!高橋さん!」
「おはよ。今日も元気だね、小金井くん」
クスクス笑う高橋に、伊月の心臓がまたも五月蝿く騒ぎ始める。
高橋の笑顔を向けられている小金井に、わけの分からない焦りを感じていると、高橋の視線が伊月を捉えた。
「…おはよ」
「おはよう、伊月くん」
ちゃんと笑顔で挨拶出来ていただろうか
にこっと自分にも優しい笑顔を向けてくれた高橋に、熱くなっていく顔を隠すようにパッと自分の靴箱に向きなおる。
のろのろと上履きを出していると、隣から高橋の気配が遠ざかっていくのが分かった。
「伊月、まだー?」
「今行くって」
とっくに履き替えて伊月を待っていた小金井のさらに先には、まだ高橋の背が見えていて
「……」
ふ、と軽く溜め息をつくと、小金井が顔を覗きこんできた。
「どしたん?なんかあったの、伊月」
「…別に、何でもないよ。行こう」
俺も、コガみたいに挨拶出来たらいいのに
チラリと小金井を見ると、きょとんとした間抜けな顔しか返ってこなかった。
2012.9.22
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