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朝練のために早朝から体育館に向かう。


「くぁ…」

「また遅くまで武将フィギュア作ってたのか?」


欠伸を漏らす日向に苦笑すると、日向は眠そうに目を擦った。


「ちげーよ。昨日特番で戦国スペシャルやってたろ」

「あぁ、戦国武将の最期!みたいな…」


いかにも日向が好きそうな番組だ。自分は観なかったが


「もう感動して録画のリピート止まらなくてよ…」

「そんなに?馬鹿だろ」

「うっせ」


そんなことを言いながら体育館の扉を開けると、中から小さな影が現れた。


「っと…わり」

「あっ、ごめんね」


通路を空けた日向に謝りながら体育館から出てきたのは…


「っ!」


ドクン、と心臓を鷲掴みにされたような感覚が走る。


「あれ、おはよう」

「…はよ」


向こうも驚いたようだったが、すぐに笑顔になって挨拶してから伊月の脇をすり抜けて行った。


「知り合い?」

「あー…同じクラス」

「ふーん、高体連近いからな。バレー部も朝練か」


体育館の半面にはバレー用のネットが転がっていた。
他に誰もいないことから、さっき出て行った高橋が出したのだろう。


日向と伊月もバッシュを履いて準備運動をしていると、ガラガラと音をたてて体育館の扉が開いた。
戻ってきた高橋が忙しなく倉庫へと入っていく。


「バレーのネットって張るの面倒くさそうだよな」


その様子を眺めながら日向が呟く。

バスケはゴールさえ出せば、あとはボールがあればすぐにでも始められるが、バレーはあのネットをまず張らなければならない。

張るのも片付けるのも面倒くさそうだと思っていたのは、伊月だけではなかったらしい。


倉庫から出てきた高橋が重そうな支柱を一人で運んで、しまったという顔になった。


「あーあ…」


日向が苦笑する。

支柱を立てる床穴の蓋を開けるのを忘れていたのだろう。
高橋が溜め息をついてなんとか支柱を持ったまま蓋を開けようとする。


「伊月、助けてやれよ」

「…うん」


ストレッチを中断し、タッタッと駆けていくと高橋が伊月に気づいたようだった。


「高橋さん、開けるよ」

「ご、ごめんね」


申し訳なさそうに謝る高橋が支柱を立てるのを手伝う。


「けっこう重いんだ、この支柱。何キロくらい?」

「えーと、30キロかな」

「うわ…よく一人で運べたな」


高橋の細腕を見やる。
身長も女子の平均を下回る高橋がそんな重いものを…


「やだな、これでも毎日筋トレしてるんだから」


苦笑しながら伊月を見上げる高橋と目があった。


「…良かった」

「え?」


高橋が困ったように笑う。


「伊月くん、いつも私の顔見て目を逸らすから。嫌われてるのかと思ってたんだけど…」

「そんなことない!」


伊月が思わず叫ぶと、高橋は驚いたように目を丸くした。


と、その時


「高橋先輩!?」


声の方へ目を向けると、一年生らしい女の子が慌ててやってきた。


「すみません、先輩より遅く来るなんて…!」

「いいの。私が早く来すぎただけだから」


そろそろ他のメンバーもやってくる頃か


「あ…じゃぁ俺、戻るから」


ぼそぼそと言って日向の元へ向かおうとすると、高橋の声が追ってきた。


「ありがとう」


顔を見られないようにしながら手を振って応え、伊月は日向の元へと小走りで戻っていった。


「どした?」

「は?」


いきなり脈絡のない日向の質問に、怪訝な顔を向ける。


「なんか変な顔してっけど」





変な顔って



どんな顔だよ



そんな、そんな顔してな…





「………っ……日向〜………」

「なっ、なんだよおい!」

「……痛い……」

「あぁっ!?どっか怪我したのか!?」



















『嫌われてるのかと思ってたんだけど』














違う。違う。そんなことは決してない。


上手く喋れないだけで


上手く見れないだけで


でも遠くからはちゃんと見てて








俺のせいで君に誤解されてたのだとしたら





何故かすごく痛いみたいなんだ














「……俺の馬鹿……」


「お前今日絶対変」
















2012.9.22


















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