遠い記憶(黒子)
夢を見た
『うわっ!………黒子っち〜、急に現れないでって言ってるじゃないスか!』
『うるさいのだよ。集中力が鈍るだろう、黄瀬』
『だって黒子っちが!』
『テツくんのせいにしないの!きーちゃんが勝手に驚いたんじゃない』
『え〜?黒ちんいたの?』
『あーもう!うるせーよお前ら!!練習しろ練習!』
『今回ばかりは青峰に同意なのだよ』
『よーっし、勝負っスよ青峰っち!負けた方がマジバのシェイク奢るってことで!』
『マジで?俺も参加〜』
『おもしれー。テツ、お前も入れよ』
『じゃぁ俺と紫っち、青峰っちと黒子っちで!』
『おっしゃ!行くぞ、テツ!』
「………」
目が覚めると同時に、少し幼い皆の姿も消え失せた。
ゆっくりと起き上がり、夢の内容を反芻する。
「黄瀬くん…緑間くん」
ポツリ、ポツリと出てくるのは、かつての仲間の名。
「桃井さん…紫原くん…」
そして
「あ…」
***
「…どーしたんだ、黒子は…」
「あ、やっぱ日向も分かる?」
放課後練習の最中、日向と伊月は首にかけたタオルで汗を拭きながら、コートの中の後輩を見つめた。
「パスにいつものキレがねぇな」
「ちょくちょくミスもしてるしね」
ウィンターカップも近いのに、切り札の不調はいただけない。
二人が難しい表情で見守っていると、土田と黒子が衝突した。
「あっ 悪い、黒子」
「…いえ」
尻餅をついた黒子の前に火神が立つ。
火神も当然、黒子の不調に気づいているようだった。
「おい…どうしたんだよ、大丈夫か?」
「すみません。何でもないですから…青峰く」
ハッとして黒子が口をつぐんだ。
火神が眉を寄せたのが分かる。
しかし火神はそれ以上追及せず、黒子を引き起こすとゲームに戻っていった。
「…………」
「疲れてるんじゃないか?ちょっと休んどけよ」
伊月に促され、コートの外に出る。
ベンチに深く腰掛け、大きく息をついた。
今朝見た夢が脳裏にちらつく。
(僕は…)
僕は、キセキのバスケが嫌いだ
圧倒的個人技を駆使するだけのバスケ
そこに最早チームは無い
でも
『おはよー、テツくん!』
『黒ちん、そんなとこで体操してたら踏み潰しちゃうよ?』
『黒子、その本貸してくれないか。文庫本が今日のラッキーアイテムなのだよ』
『さっき女の子にクッキー貰ったっス!黒子っちも食べるっスか?』
『テツ、帰りにマジバ寄ってこーぜ!』
僕がこれだけ彼らのバスケが嫌いなのは
きっとそれと同じくらい
彼らのことが
彼らと過ごした時間が―…
「黒子ッ!!」
「え?」
顔を上げるのと、飛んできたボールが黒子の顔面にぶつかる寸前で、木吉の大きな手に止められたのは同時だった。
「あっぶねー」
コートにボールを投げ入れながら、木吉がクルリと黒子に向き直る。
「熱あるんじゃないか、黒子」
「え…」
「私もそう思うわ。はい体温計」
リコに差し出された体温計を脇に挟んでしばらくすると、ピピピと鳴った。
「37度8分…。ダメね、今日はもう帰りなさい」
リコが溜め息つき、木吉も同意するように眉を下げながら笑って頷いた。
ふと周りを見ると、練習は中断されて皆が心配そうに黒子を見つめている。
(火神くん)
火神もジッと黒子を見ていた。
その目には何の迷いも一切無い。
「…………」
そうだ
僕は彼と約束した
「…大丈夫」
誰にも聞こえないくらいの声で呟いて、黒子は立ち上がった。
今の僕の光は君だ
たとえ相手が僕のかつての光でも、君ならきっと
『俺に勝てるのは、俺だけだ』
もう一度、青峰君が笑ってくれるように
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
熱でちょっとナーバスになっている黒子でした。
黒子はセキのバスケは嫌いでも、キセキ自体は大好きなんだと思います(^^)
ピュア峰が今峰になってしまったのに、一番悲しんでるのが黒子かと。次が桃井!
2012.04.22
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