そして、僕らは秘密を共有する。
#02
動転しながらも身体だけは病人の処置をするべく動かしていく。
ベッドを調え、服を着せ、横たえる。
熱を測るまでも無く明らかに高熱なのが判る。
出血の原因も怪我では無かった…生理…のようだ……たぶん……。
医者も呼んだ。自分の掛かり付け医。というか闇医者だけど。
今のリボーンを見て『リボーン』と判ろうはずも無いが、一応擬装もする。
栗色のロングウィッグを被せ、軽く化粧もして顔の印象を変える、顔や手の甲などの目立つところにホクロを付ける。
たったこれだけのことだが、やらないよりはマシだろう。
プライバシーだけは徹底して守るタイプの医者なので、余計な詮索はされないから、これはリボーンの為というよりはドクターに不要な火の粉が掛かるのを防ぐといった意味合いが強い。
「で、またお前さんは子供を拾ったのか?何人目だ一体」
雨の中駆け付けてくれたドクターに苦笑を返す。
「ん?7人目?子供に分類すればだけど」
「…ボヴィーノの牛は犬猫女子供見境無しに拾う…」
「別に大人の男だって拾うよ?落ちてないだけで」
拾い物好きという認識はある。
って、言うか落ちてたら拾うでしょ。可哀相だもん。
「とんだ博愛主義者がいたもんだ!噂になってるぞ。拾った後の生活まで面倒見てるって」
「仕事があるから面倒を見るってほどのことは無いよ。子供だったらうちの孤児院に預けるし、大人だったらツテを紹介するだけだし」
「それを『面倒見る』っていうんだ。十代のガキが足長おじさんか?全く!」
「良いこと尽くしなんだけどなぁ。
可愛い弟妹が出来て、行きつけのカフェに行けば、可愛い子猫ちゃんが満面の笑顔でサービスしてくれる」
本気でそう思っていて、人に聞かれればそう答えるのだが、理解は中々得られない。
これは多分日本のママン(沢田家の奈々お母さん)なら、分かってもらえるような気がするんだけどなぁ。
「…ふん。まぁお前はお得意さまだ。大概のことはスルーしてやる」
「はは。ありがと…で、どう?その娘。大丈夫?」
無駄話をしながらも、診察を続けるドクターに問い掛ける。
あくまでも拾った娘さんへの心配をするように。
決して知り合いであることを悟られないように。
「まぁ、お前さんの見立て通りだな。
月経による貧血状態と風邪による高熱…外傷は無いようだから、問題は無いだろう。
まぁ肺炎にでもなられたら大変だから解熱剤と抗生物質…あとは鉄剤位か。
意識が戻れば状況によっては入院だな。
取り合えずは汗かかせて、水飲ませて、薬飲ませておけ」
「分かった。ありがとね。こんな深夜の呼び出しに答えてくれて」
「夜間割増はキッチリ頂くから構わん。あぁ、そうだな出来れば今度遊びに来い。お前の拾った猫が子を産んだぞ」
「えっ!キャリーが?障害が残って小さい子だったのに…うん近い内に行くよ…ありがとう」
「ふん。まぁ、大丈夫だろうが容態に変化があったら連絡しろ」
「はーい。あ、言うまでもないけど一応他言無用で。
この娘がどこの娘か分かんないし、俺が関わったことで困ったことが起きないとも限らないし」
「ま、そうだろうな。一般人はマフィアとは接触したくないもんだ…それが命の恩人でもな」
「ボヴィーノもランボさんもマフィアっぽくないんだけどねぇ」
「言ってろ。ボヴィーノのナンバーワンヒットマンが」
「えー?いつからそんな肩書きになったんだよ俺は。
って言うか有り得ないって!俺はどちらかというと諜報の方なんだから」
苦笑混じりにそう返すが、ドクターの表情は疑いと呆れを含んだもので。
あれ?マジでそう思ってる訳?
「…ま、俺はお前さんが何者でも、良い顧客であることには変わらんか…守秘義務は勿論遂行する。その娘さんが何者でも俺は関係ない。それでいいな?」
「ありがとう。可愛い子猫ちゃんの将来は大切にネ!
…あぁ、雨も止んだね。送れなくてごめんなさい。
来週には一度お伺いするね。ルイーザにヨロシク♪」
「…なんで俺の嫁にヨロシクなんだ。油断ならない奴だな本当に」
そう呟きながらも、彼は何時も別れ際にはうっすらと笑い、癖のある俺の頭を撫でてくれる。
そんな優しいドクターに本当のことを言えないことを心の奥で詫びながらも、リボーンだと悟られないように、細心の注意を払い続け、ドクターを無事送り出したことで安堵の溜息がでる。
「…リボーン。君はどれだけの秘密を持っているんだい?」
未だ眠り続ける彼にそう、呟いた。
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