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空まであがれ (佐幸)




「あぁ、おかえりなさい旦那。お水いる?」

「うむ」

鍛練帰りの汗を拭いながら歩いてきた主を佐助が笑顔で迎えた。

佐助が洗濯物を抱えていることについては幸村も今更過ぎて何も言わない。





「む?」

「ん?」

「なんだ、たてたのか」


幸村の視線の先、庭先にちょこんと小さなこいのぼりが風に揺れていた。


「そりゃたてましたよ」


当然でしょと胸を張り、菖蒲もらってきたから今夜はちゃんと菖蒲湯入ってねと言う佐助を幸村は逆に意外そうな顔で見やった。



「俺はこいのぼりを上げるような年ではないぞ?」

「なに言ってるんデスカこのお口は」


軽い力でほっぺたを摘んだ。

「こいのぼりだってたてますぅ。俺様は、旦那に出世してもらいたいんだからね」




病気をしませんように
立派に育ちますように

願いを受けて鯉が空を泳ぐ。




「大体、こいのぼりが出てないって騒いだの旦那でしょ〜」

「なっ!!いつの話を、」

「ほんの十年前ぐらい?」

佐助がニヤニヤと笑う。


まだ幸村なんて名前じゃなかった頃、弁丸のこいがないと半ベソでせがんできたぬくい身体。
あの頃は身体もぷにぷにしてたっけ。
こいのぼりなんて用意してなくて、慌てて紙でこいのぼりっぽいものを作った。



「しかも旦那ったら振り回して壊しちゃったし」
「……す、すまなかった………」

「ま、立派に育ってくれて俺様も嬉しいですよ」



背丈を確認するように目線を合わせる。

(ああ、もうこんなに近いんだ)



「これからも、おっきくなってね」





佐助の笑顔をじっと見つめていた幸村が、おもむろにこいのぼりを指指す。

「ということは、あの一番下の鯉は佐助だな」


パタパタ泳ぐ3匹の鯉。
お館様と、幸村と、佐助。


「いや俺様はいいよ、」

「よくないぞ!アレは佐助だ!!」


佐助から矢立を奪うと、鯉に名前を書いてしまう。

「これで一緒だな!!」


子供の頃と同じ、
満面の笑み。


(参っちゃうなー……)

なんかもう


こいのぼりは仲良く揺れていた。






「佐助」

「んー?」

「今日のお八はチマキを頼む」

「……ハイハイ、作りますよ…」













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