帰路にあらず (2769) 在様へ
隣でさっきから震えている肩。
彼の顔は背けられ決して骸に向られない。
何度も何度も、骸は彼を見捨てて先に進もうとしているが、それがどうしても出来なかった。
骸は苛立ちながら綱吉を振り返り、しかし彼を見ると何一つ言葉の出てない自分に更に苛立った。
綱吉の表情は分からない。
前髪と、口元を覆った手が顔を隠しているから。
しかし、空気は何より彼の感情を雄弁に伝え――骸は遂に我慢出来ずに盛大に怒鳴った。
「笑いたければ笑えばいいでしょう!!」
そして、綱吉の爆笑が住宅地に響き渡った。
「そう怒るなよー。いやぁ、あまりにもギャップがあってさ」
ようやく笑いをおさめた綱吉がなだめても骸は視線をあわせようともしない。
よっぽど綱吉の大爆笑がお気に召さなかったらしい。
「まさか骸が方向オンチとはねー」
「違いますよっ!いつもと違う道を通るといつもと風景が変わって分からなくなるんですっ!!」
それを方向オンチと言うのでは。
綱吉はそのツッコミを胸の奥にしまった。
「………君だってよく道に迷うでしょう」
「俺?違う違う。俺は地図が読めないの。進行方向に地図合わせてくるくるしないと分かんなくなるの。ヘタに地図もらうより勘に頼った方が着ける」
「…流石ブラットオブボンゴレ……」
感心するより呆れるより皮肉った骸だ。
反則だろう、それは。
そもそも今回悪いのは完全にあの雲雀恭弥だ。
あの男と戦闘しながら移動して、気がついたら知らない土地に立っていた。
一応骸なりに帰ろうと努力はしてみたが、泥沼になった感は否めない。
困っていた所に散歩中の綱吉が通りかかり、帰れないので送って下さいと頼んだらあの爆笑だ。
しかし、どれほど後悔しても既に骸のスキルでは帰れなかったのだから仕方ない。
前を歩く綱吉はどう見ても適当に歩いている。
夕方の人込みの中を、突拍子もなく曲がったり。「ちょ、綱吉君、」
あまりのスピードについていけなくなった骸が呼び止める。
運動神経とは別に、骸はこういった人込みを歩くのに慣れていない。
綱吉のスピードに合わせることは出来なかった。
それにやっと気付いた綱吉はしばらく逡巡した後、手を差し出してきた。
意図は明白。
背に腹は代えられず、骸は綱吉の手を握り返した。
細い背中だ。
後ろを歩く骸はそい思った。
そんなどうでもいいことでもを考えていないと繋いだ手にばかり意識が行きそうだったからだ。
自分より小柄な身体。
それでも背筋を伸ばして歩く姿は毅然としていた。
(………あぁ、何故でしょうね)
西日が骸の横顔にあたる。
前を行く背中を見詰める骸の顔に熱が集る。
繋いだ手にも、伝わってきた以上のぬくもりが。
前を行く背中
引っ張って行く手
あぁ、自分はホントにどうしたのだ。
(沢田綱吉が頼り甲斐のある男に見えるなんて!!)
相互リンク記念として在様に進呈させて頂きます!
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