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濁った深海の契り (mam27)


捏造十年後






ころ ころ ころ、

かつん。

ころ ころ、………


ちっぽけなビー玉はクリーム色の壁に当たって、綱吉の手元に戻る前で止まった。


光が鈍い虹色になってビー玉の表面を撫でていく。


「………………」



生温いリノリウム。
何もない部屋。

あぁ、なんて。
気に食わない、面倒臭い、煩わしい。





手元のビー玉を力一杯投げ付ける。
強い力の加えられたそれは、先ほどのビー玉とは逆に綱吉の後ろまで跳ねていった。



部屋に散乱したビー玉が、一つ、二つ、三つ、四つ。




ぴくりと指先が震えた。背後で聞こえる微かな足音。

鍵を開ける耳障りな音の後、鉄扉が軋みながら開いた。


入ってきた彼は部屋の中の光景に眉をしかめたようだった。

「………床で寝るのは止めた方がいいんじゃない?」

ころりと寝返りを打てばマーモンの黒いローブが視界にちらついた。
そのままフードに隠れた顔を見上げる。


見上げるその瞳は人間離れしたほど透明な琥珀いろ。

嵌め込まれたガラスのように感情が写らない。


「他のどこで寝るの?」
マーモンは言葉を探すように口を開いたが、何も言わずに口を閉じた。
ベッドどころか敷き物もないのだ。選択の余地もない。


見上げる綱吉の顔を見て、マーモンが顔をしかめた。

「まったく……君もバカなことをするね」
綱吉は声を立てずに笑った。
すこし、頬が引きつれて痛む。


綱吉は自分の頬を意識した。
マーモンが苦々しく見つめているもの。綱吉がこんな軟禁状態になった原因。
リボーンに殴られた、痣。


「一つ言ってもいいかい」
「どうぞ?」




「君の家庭教師は異常だよ」


綱吉はまた、声を立てずに笑った。


マーモンが足元のビー玉を拾いあげる。
「君も物好きだね。あの狂人相手に意地を張るんだから」
「狂人!!スゴいこと言うねマーモン!」
くるってるんだ、言いながら綱吉は笑う。


「愛って怖いね」
「フン」





マーモンを見上げながら、綱吉がゆっくりと手を差し出した。

痩せた手首と生白い肌。
壊れかけの人形のようなそれ。


「ねぇ、マーモン」
「――何だい」
「逃げよっか?」

蛍光灯を照り返す琥珀が鈍く光った。











「イヤだね」
「ありゃ」
「君と逃げてどうするのさ。アイツはなんとしても君を捕まえるだろうね。それで君は自分の手足とオサラバだ」
マーモンが、ビー玉を一つ拾いあげた。


キラリと光る。



「あぁ……でも、そうだね。」

マーモンの小さな手が、優しい仕種で頬に添えられた。

「――殺すなら、してあげる」
君を。

あの死神の鉛が届くより速く、僕の幻で。


「それって、俺と一緒に逃げるよりマズいんじゃない?」
「かもね」

翻したマーモンの手からビー玉が落ちる。
ビー玉はかん高い音を立ててから転がった。


ころ、ころ……

「ねぇマーモン」

綱吉は痣のある口角を吊り上げる。


「愛って怖いね」




転がったビー玉は他の二つに当って、弾けた。






















愛故に綱吉を殴ったり閉じ込めるカテキョさん。
愛故に、バレたらただでは済まないと知りつつも監禁中の綱吉に会いに行くマーモン。
タイトルby水葬



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