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墓守と少年 (1827)


捏造十年後







「何が不満なの」

逆光が彼の細かな表情を隠す。けれど綺麗に弧を描いた口元だけははっきりと分った。


「僕は従ったでしょう?」

君の命に
君の言葉に


君の残酷さ、に

そして


「不満なんて何もないよ恭弥さん」
嘯く彼の柔らかな声音。
彼の声が形になったら、きっとまるい。

「そう?」
「ね、恭弥さん。こっち来て」


素直に雲雀が近付けば、綱吉はその手を取った。

「俺、恭弥さんの手、好きだな」
「ふぅん」
「指がね、長いんだ。何より、爪が短いしね」

爪が短い人はすきだよと、彼は柔らかに微笑んだ。

そう、と雲雀は平坦に相槌を打つ。爪が短い人は何かを頑張っている人だという。
長い爪では人を殴ることも引き金を引くこともできないから。


綱吉の爪は長い。

「――気に入ってもらえて結構だけどね、」

雲雀は綱吉から手を取り戻す。
綱吉の手は温かくて、まるで心優しいひとの手のようだ。

「はい?」

「この手は、さっき君の部下を殺した手だよ」



綱吉が、笑む。

優雅に。










「それが?」









「………最低だね」

吐き捨てられた罵倒など意にかえさずに綱吉は笑う。

頬杖をついた彼の手の、長い爪。
何もしない手の証明。


「でも、俺のこと好きでしょう?」

優しいふりの上手い、最低で、酷い男。



けれど雲雀は彼に従う。

雲雀の矜持も行いも、

彼の命に
彼の言葉に
彼への愛、に

雲雀は従う。





だから雲雀は笑った。

綺麗な長い爪。
人の手を汚させながら、なお綺麗な手の証。


「………そうだね。君のその手は嫌いじゃないよ」



雲雀の言葉に、彼はうれしそうに微笑んだ。



















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