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乳酸菌ラバー (松慶)


現パロ






お中元ですよと家政を任せている婦人が顔を出したとき、松永は僅かに目を見張った。

お中元を送ってくるような間柄の人間には、ここの住所を知らせていない。
大体の郵便物は会社に届く。
「誰からだね」
「前田慶次さんです」


意外だった。


熨斗つきの丁寧な包装を外せば、桐箱入りの素麺だった。
『揖保の糸』

かわいらしいことだ。

松永はあの甘ったるい顔の子供のことを思った。松永の半分も生きていない子供。
あの子供の、子供のくせに媚びるように甘えるところや、素直なくせに我慢強いところが面白いなと思う。


(さて、一体誰があの子供にこんなことを教えたのか。)
そういえば、あの子供には中元の類いは送っていない。
松永は百貨店の贈答品をそのまま利用している。今年は確か日本酒で一括した。
だが、店に保管されているリストに慶次の名前はない。

「ふむ」










「慶次ー!挨拶状は送ったんですか!?」
「んー」
まつの怒鳴り声を聞きながら慶次はフローリングを転がった。

「でもまつ姉ちゃん、俺ちゃんとお中元は送ったよ」
「目上の方に送りつけるのは失礼になるんですよ!」
「はーい」

でも、相手は松永さんだし。
心の中で呟いた本音を聞いた人はいない。

あの人は、慶次のお行儀には頓着しない。
多分、そんなことに興味がないのだ。慶次がお行儀の悪い子でも、いい子でも。
(イヤな大人、だ)

でも好き
素足の指をきゅうっと丸めた。


「慶次ー宅配ですよ」

無視するにはあまりにも通りのいい階下のまつの声に従って、慶次はむくりと起きて下に下りた。
玄関先にちょこんと箱が置いてある。

「誰からかなー」
伝票を辿った指が止まった。
『松永久秀』

「………あれぇ?」

中身を見て更に驚いた。
青、オレンジ、ピンクの紙パック。慶次にはお馴染みの、けれど松永には不似合いな。
今どきのカルピスには、色々な味があるのだ。


どこにでもある、普通のカルピス。
至極一般的なそれは、前田家でも頻繁に受け取る。
送るなら、産地直送の高級製菓だって何だってあの人らしいものはたくさんあった筈なのに。

「……どんな顔で選んでくれたのかな」

分かる。
これは、慶次だけの『特別』だ。
あの人は、他の相手なら絶対にこんなものは送らない。


慶次は箱を持って立ち上がった。

そうだ、今度行くときに一本ぐらい置いてこよう。
きっと、贈り物を私の家で消費してどうするんだとか言うだろうけど。

「まつ姉ちゃーん!俺のコップ出してー」














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