うたかた 2 (佐幸転生パロ)
ねぇ、あいたいよ。
無様でも何でも、それが本当なんだよ。
□■□■□■□■□
「今夜、神社で祭があるんだ」
「へぇ」
「真面目に聞け!!……一緒に、…行かない、か」
「……………デート?」
がんっ。
投げ出していた足を思いっ切り踏まれた。
「違うっ!断じて違う!!」
「………でしょうね…」
痛みに冷や汗が出るかと思った。上履きでこの破壊力の理由が分からない。
「何だっていきなりお祭なんて…あ。」
かすがの行動原理なんて決まっている。
「上杉先生か」
かすがが言葉に詰まった。
神社のお祭だ。確かに、あの信心深い人なら行くかもしれない。
行けば、会えるかもしれない。
――健気で、懸命な恋心。
「一人で行けば?」
「私一人だと男が寄ってくるんだ!!」
そうまでして会いたいのか。
あの人に。
ぼんやりと、身の内に波紋が起こる。
会いたい。会いたい。どんなことをしても。
そう、確か、自分にも――
「で!行くのか行かないのかどっちなんだ!?」
波紋はあっけなく崩れた。
「……行くよ。あ、せっかくだし家の前まで迎えに行ってやろうかー?」
「断固拒否するっ!!……六時に鳥居下で待ち合わせだ」
放課後ふらりと上杉先生の庭、茶道部に寄った。
別に、あの一生懸命な恋のために動いてあげるほど善人ではない。
上杉先生はいつも通り、少し微笑んで迎えてくれた。
「どーも。今日はお茶ですか」
「ほんのてすさびです。たてましょうか?」
「遠慮しまーす。そんな大層な身分じゃないんで」
それでも抹茶が出てきたので作法を無視して飲んだ。泡もちがよくておいしかった。
「で、お祭なんですって。知ってました?」
「おや。どおりでにぎやかなはずですね」
やっぱり。
この人がお祭だなんて『俗世』に興味があるわけがない。
学校の前にもお祭のポスターが貼ってあったのに。
「ね。一緒に行きません?」
「――そんないいかたをするということは、なにかある、ということですか?」
「うわ、ひど」
すぅと秋風が首筋を冷やす。
肌寒い秋風を受けるたび、郷愁じみた思いが去来するのは何故だろう。
それは、一人だと自覚するせいかもしれない。
周囲に人がいるのが余計に。
人込みの中に金の煌めきを見つけて慌てて止まる。
「かーすがー」
「遅いぞ猿と、び…」
振り返って睨み付けてきたかすがの威勢はすぐにしぼんだ。
クラスメイトなど素通りで視線は後ろの上杉先生に釘付けになっている。
(………そんな顔晒していいのかね)
「こんばんは。こんやはおめかしですね。ずいぶんとかわいらしい」
かすがは分かりやすく真っ赤になった。
バカバカしいほど初々しい光景を尻目にそこを離れた。
お優しい上杉先生なら、連れとはぐれた年頃の女子生徒を放り出したりはしないだろう。
(感謝して欲しいね)
静かに、人込みに紛れた。
喧騒、
夜店の匂い、
わらいごえ、
照明、
ざわめき。
笑顔の人。楽しそうな人。
するりとその熱の間を縫うようにして、進む。
(どこに?)
分からない。
すれ違う人。
人、人、人、人。
何人も何人も。陽炎のように現実感がない。
夜の気配、
虫の音、
人の熱、
微かに、秋風。
ふわりと。
笑い合う人々。
誰も、気付かない。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
あぁ、そうか。
(俺が、誰も目にとめないんだ)
この場に居る何百人に、
何の、意味も。
ざわめきすらも間延びする。
渇望、
欲求、
あふれる
(ねぇ、)
いないいないいないんだんだどうして。
『彼』がいない―――。
胸がつぶれそうな。
ぎゅう、と襟をつかんだ。
きしむ。
あふれる。
ごぼり。
「だん、な」
あか。
「けしからんでござるぅうう!!」
「あれ?」
きょとん。
「おなごに手をかけるなど許せぬ!!」
振り返った先に、彼は居た。
きりっとした眉と、対照的にくりくりとした目。
健康的な生命力がはちきれんばかりで。
綺麗な黒髪の女の子を背にかばって、三人のガラの悪い男と対峙している。
ひるがえる彼の赤いハチマキ。
涙が、出た。
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