エゴの花咲く (6927)
捏造十年後
「っ」
扉を開けると、秀麗な男が立っていた。
「骸」
「こんにちは 綱吉君」
やんわりと響く、綱吉とは違う低いテノール。
「あぁびっくりした。お前何でそんなとこに立ってるんだよ。危ないだろ」
「すみません。――お出かけですか?」
きちんとプレスされたシャツと、品のいいジャケット。
磨き抜かれたスーツ。
ボンゴレのドンになってから馴染んだその格好も、今日は少し意味が違う。
「は?当たり前だろー。まったく、こんな日まで仕事だよ」
困っちゃうよねと、照れて笑った。
こんな日。
「あれ?もしかしてお祝いに来てくれた?」
「お祝い、ですか?」
「あれ?違うの?」
さっきランボと了平さんが顔出してくれたよ。なんか緊張がほぐれたかな。
「ほら、アイツがジューンブライドにこだわりからバタバタしちゃっただろ?なんか今日やっと実感湧いたんだよね」
「綱吉くん」
「って言っても当日の朝まで仕事だなんて情緒ないけどなー」
「綱吉 くん」
「何――」
ギクリ。
危ないと、頭の奥で警鐘が鳴る。
目の前には己の守護者。
秀麗な男。
その、貼り付けたような笑顔――。
「むく」
「綱吉くん。僕は自分の中にこんなにも穏やかな気持ちがあるとは思っていませんでした。人を、愛しく思う日がくるなんて。」
骸が、一歩近付いてくる。
「綱吉くん。僕は、君が望むなら何だってできるような気がするんです」
綱吉は、硬直したように動けない。
「君は言いましたね。僕に。愛し愛され、幸せになって欲しいと」
空気さえ動かさない静かな動きで、骸の手が綱吉の頬に添えられる。
冷たい、指。
すぅっと、貼り付けた笑顔の上に一筋、涙が流れる。
それは懇願の断罪。
「なのに、君は他の女と結婚するんですね」
「むく、ぁ」
冷たい指先から、何かが流れ込んでくる。
沈む。
意識が、遠ざかる。
倒れゆく寸前に、今日の日付を思い出した。
6月9日。
(あぁ、ごめんね、骸)
2009.06.09
骸お誕生日おめでとう
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