[携帯モード] [URL送信]
右手には温まった弾丸 (佐幸)




主は微動だにせずにその背中を見送っていた。
正確には、その先。
傷つき倒れた彼の宿敵の姿を。


「………よかったの?旦那」

佇む背に投げ掛けた言葉は、いつものように気楽なものだった。
少なくとも、佐助はそうあるように装った。その内心は裏腹に穏やかではなかったが。

「佐助か……」
「大将に怒られちゃうよー」

「良いのだ」


肩越しに見えたその横顔。



(あぁ、やんなるよ。まったく)



この主は、いつだって潔くて。

闇に生きる忍には少し眩しい。



純粋で、まっすぐで、強さに貪欲。

幸村は、あの宿敵を失ったとき、どうするのだろう。



(あ、なんか、キスしたい)



我ながらどうかしているなぁと頭の片隅で思った。


手を伸ばす。



「じゃ、大将に報告しに行こうかぁー。ね、旦那」

触れる寸前に手をひっこめ、佐助はいつもの声音で幸村の隣に立った。



どんなに目を凝らしても、かの宿敵の背中はもう見えない。


「ああ。そうだな」

潔く視線をずらし、幸村は隣の佐助を見つめた。

「何?」
「いや、………佐助が俺の忍でよかったと思っただけでござるよ」



(う、わ)


何その口説き文句
反則でしょ


(ホント、やんなるなぁ……)


醜い妬心も、ちっぽけな不安も、
この主は吹き飛ばしてしまうから。

「なぁに?旦那。そんなこと言っても、大将への報告はちゃーんとするよ?」
「なっ!この幸村お館様を謀るようなことはせんっ!!叱責は覚悟の上っ!!」
「あ、怒られる自覚はあるわけね」


うぉおおぉおやかたさまぁあぁぁああと吠える幸村は、最早佐助の言葉など聞いていない。

やれやれと、佐助は頃合を見て幸村を引っ張っていく。


「あーぁ。俺様も物好きー」
「ム、何か言ったか?」
「なぁーんでもないよー」




佐助は一つ笑みをこぼした。

その微笑みを、幸村が見ることはなかったけど。











「この馬ぅう鹿ぁあぁ者めぐぁあああぁぁぁぁぁっ!」
「ぐはぁっ!!」

痩駆があっけなく宙を舞った。
当たり前だ。掛け値なしに岩をも砕くあの拳を受けて、立っている者はいない。

「申し訳ございませんおやかたさぶぁああああぁあぁぁああっっ」
「幸むるぅああああぁあぁぁっ!」

熱く殴り合う暑苦しい主従を前に、佐助は頬を引きつらせる。


(はは……ホント、やんなるよ………………)













「武田戦線強行突破」戦捏造
幸村の不意打ちに弱い佐助



[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!