The memory is arranged. (re27)
捏造未来
碌でもない。
「あ?」
小さな呟きを聞き咎めたリボーンが綱吉を見やる。
「何でもないよ」
冷たいシーツの海に沈みながら、綱吉は目を閉じた。
素肌に触れるシルクのシーツ。
冷たいシーツはリボーンに似ていると思った。
引き締まった身体と、白い肌に対照的な黒髪。
溢れる若々しい生気。
若く美しい青年は美術品めいた容貌をしている。
さしたる目的もなく、綱吉は緩慢に片手を上げた。
まるで薄布越しに身体を動かしているようなちぐはぐな乖離。
10年前には確かにあった陶酔も、今は遠い。
今この肉体に残るのは、泥のような疲労と一抹の空虚さ。
肌を重ねても、脳髄に響く快感に溺れても、あるのは麻痺した感情だけだ。
「…リボーンも、そろそろ俺を抱くのやめたら?」
「は、何だ。体力の限界か?相変わらずの感度のくせに」
綱吉の言葉を戯れかと思ったのか、リボーンはニヤニヤとそう返してきた。
ベッドに再び潜り込んで、前戯のように身体を撫でてくる。
(触っても楽しくないと思うんだけどね。こんな体)
綱吉の身体は、昔に比べてかなり痩せた。
多忙な生活と過度の精神疲労のせいで食が細くなったからだろう。
もともと体格は良い方ではなかった綱吉だ。今ではドン・ボンゴレという肩書きが嘘のように貧相な身体つきをしている。
「こらリボーン、出掛けるんだろう?」
いつまでも綱吉の体を撫で回しているリボーンに声を掛ける。
雰囲気に流されない年上の男にリボーンは舌打ちした。
「チッ、余計なことばっかり覚えてるな」
リボーンはベッドを降り、クローゼットからシャツを出す。
愛人のうちの一人が今日誕生日なのだそうだ。
綱吉はシーツの上でその光景を見ていた。
夜遅くに、リボーンはまたこのアパルトマンに戻ってくるだろう。
女物のフレグランスを身にまとって。
身仕度を完璧にし終えたリボーンは、フックからボルサリーノを取り上げた。
「行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい先生」
昔のように、綱吉は笑ってそう呼んだ。
イタリア男は別れのキスにしては濃厚すぎるキスをして、チャオと言って部屋を出て行った。
一人残った綱吉は、身じろぎもせずにじっとしていた。
家具の一部になるように。
感情など持たない何かに身体を変えるかのように。
サイドテーブルの上の携帯が鳴る。
綱吉は義務的な動きで携帯を取った。
「もしもし?あぁ獄寺君。うん、じゃあ今から帰るよ」
通話終了のボタンを押し、綱吉はゆっくりとシーツの海から抜け出した。
The memory is arranged.
記憶を並べて
タイトルby花瞼
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