拍手 (有川兄弟×望) 「今年の恵方ってどっちだっけ?」 「東北東だったと思いますよ」 望美は北北東と思われる方を指差したが、そりゃ南東、という将臣のツッコミをもらった。 コンビニの棚にはおにぎりの下にきらびやかな『恵方巻き』というパッケージがある。 「何かさぁ、結構さいきんだよね?恵方巻きが出て来たの」 「元々は関西だからな」「そうなの?」 「えぇ。本当は恵方参りといって、元旦に恵方の社寺仏閣に参拝したりするんですけどね」 そ、そうだったのね…っと物知りな有川兄弟に囲まれ、物知らずな望美は目から鱗だ。 「じゃあ何で関東に来たの?」 「コンビニの時期モノ商戦だろ?」 将臣は事も無げに言って、カゴにお弁当を放り込む。 譲はそれを見て怪訝な顔をした。 「何か食べたいなら俺作るけど?」 「なんかジャンクな気分なんだよ」 望美はいいなーとその様子を見ていた。 人が食べてると食べたくなるタチなので、お弁当を買いたいが、今コンビニ弁当を食べれば夕飯が入らないのがわかりきっている。 若干ほほを膨らましていると、ブスッと指を刺されて空気を抜かれた。 「一口な」 にやりと笑った将臣に、望美の顔が輝いた。 「わーい!じゃあ私こっちー」 望美は棚から別のお弁当を選ぶ。 将臣はヘイヘイとカゴの中のお弁当を入れ替えた。 譲はそれを見て渋い顔をしていたが、望美にお腹へったーと言われれば笑顔で何か作ってしまう身なので、何も言えない。 コンビニの入店メロディが陽気に響く。 「まぁ、商戦って言ってしまえばそれまでなんでしょうけど」 「恵方巻き?」 「やっぱり縁起物ですからね。イワシの頭もってやつじゃないですか?願いが叶えばいいなって」 恵方巻きのパッケージには、『除災招福』という文字がある。 恵方を向いて、目をつぶって、願いを思い浮かべながら太巻きを食べる。 冷静に考えればそんなことして願いが叶うわけないんだけれど。 例えば将臣は、望美が彼のお弁当を半分以上食べても、あれもこれも食べたいとカゴに入れても、きっと呆れながら許してくれる。 例えば譲は、望美がどんなに馬鹿なことを聞いても、望美に分かりやすいように説明してくれる。 (イワシの頭も信心から…) 望美は小振りな恵方巻きをカゴに入れた。 「何だよ。買うのかよ」 「んー縁起物だし」 望美は振り返って笑った。 病気になりませんように。健康で暮らせますように。 二人の幸せを祈って恵方巻きを食べよう。 二人が甘やかしてくれる分だけ [*前へ][次へ#] |