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すりぬける星影に乞う (友人帳/田夏)




ぽたりと落ちた雫が広がって、じんわり滲みるように。
彼は、そんな人間だった。














見知った背中を見つけて田沼の足が止まる。
じっと何かを見つめている夏目の視線を追ってみたが、そこには何もない。

春の空を見ていた夏目の目が、ふっと優しくなった。



(あ、)
じわり



「夏目」
「田沼?」
夏目が振り返って田沼に視線を向ける。
ちょっと目を見張ったその顔はどこか可愛かった。
「帰るのか?」
「あぁ、田沼も?」
「うん」
「じゃあ、一緒に帰ろう」




それから二人でとぼとぼ帰って、とりとめのない話をした。

数学の課題がどうだとか、体育の選択がどうだとか。


こういうときは夏目が話しているのを田沼が聞いていることが多い。
夏目に声をかけづらいと言っていたクラスメイト達は、こんな風に話さないから知らないのだ。


大笑いをしたり、しかめっ面をしたり、怒ったり、困ったり、照れたり。
そんな夏目を知らないのだ。



もったいないなという同情と、優越感に似た何だかよく分からない安心。


(ちょっとズルイか)


なんだか、見つけたとてもキレイなビー玉を友達に隠す子供みたいだ。


日に透ける細い髪とか、伏せられるまぶた、
黒い学生服。



優しいやつだ。

すごく優しくて、でも、




とても、不器用な。



「夏目」
「ん?」
「さっさ、何かいたのか?」
「さっき?――あぁ」

その、こぼれた微笑みは、すぐ溶ける淡雪のようだった。

「小さな鳥がいたんだ。薄いピンクの。兄弟だったのかな。ふらふら危なっかしく飛んでるヤツをね、心配そうに飛んでるのがいたんだけどさ。そいつもヨロヨロなんだよ。可愛かったな」




そう言って笑った夏目は、その鳥が妖だと分っているんだろうか。





田沼の目には映らない 多くの妖。

夏目はそれらの妖すべてに心を動かす。

悲しみや、喜び、楽しさを、夏目は妖と分かち合う。



じわり
(あ)



なんだか切々とした悲しみを感じた。


夏目は、人も、妖も、守ろうとする助けようとする。
傷つかないように、
泣かないように、
悲しまないように、


夏目は守ろうとする。



とても 優しい、




(夏目)


夏目、夏目

この世界は君に優しいかい?
人は?妖は?
君に優しいかい?


「田沼」
「っ、何だ?」
「あそこ、ほら、たんぽぽ」


夏目が笑いながら指した先には、コンクリートを割って咲く一輪のたんぽぽがあった。

大きく広がった葉と、鮮やかな黄色い花

「きれいだな」


じわり

じわり


(あぁ、)

夏目、そう笑う夏目の方がずっときれいだ。



じわりと温かいものが滲みていく。

それは優しく温かい。




夏目はテレビアイドルのように鮮やかに光るわけじゃない。

その代わり、夏目のもたらす全ては心の深いところまでにじんで、どうしようもなくしみていくのだ。


(夏目、俺に出来ることは少ないけど)

せめて、願うよ。


優しい君にふさわしく、世界が君に優しいように。

夏目に悲しいことがないように。



そっと。











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