[携帯モード] [URL送信]
甘い夜まであと少し (2718)


捏造十年後






はっきり言って切羽詰まっていた。
必死にペンを動かしているが、書いても書いても書類が減らない。
一分一秒ごとに部屋には緊張感が張り詰めていく。

ペンを走らせる音
時計の秒針が無情に進む音
爆発寸前の低気圧が停滞している気配

ドン・ボンゴレの執務室は修羅場と化していた。

「ツ〜ナ〜っ!」

扉が開き、いつもの爽やか過ぎる笑顔で現われた雨の守護者は無駄に殺伐とした空気に出迎えられる。
爆発寸前の低気圧、雲雀の視線が真面目に殺気を含んでいる。

「……お取り込み中?」
「やまもとおぉおっ!!」

綱吉の叫びには頼むから余計なことを言うなという切実な願いがあった。
山本の方は拍子抜けだ。
クリスマスで二人がいちゃいちゃしてるであろう部屋に書類なんて持ってけませんと部下に泣き付かれたから、こうして憎まれ役になりに来たのに。
いちゃいちゃしてるどころかぴりぴりしているのはどういうことか。

「仕事が終わんないんだよ……」
「あー…」

お互い、ソファに座る雲雀を憚った小声。

綱吉は今日という日のためにちゃんと仕事を振り分けていたのだ。
ちゃんと休みをとれるように。
それが、どっかの暗殺部隊が建物を壊しまくったせいでこれだ。

「う〜わ〜。ドンマイ」
「あとちょっとなんだよぉ」

「もういいよ」
「えっ!?」

今までソファで尊大な態度を取っていた雲雀がいきなり立ち上がりスタスタ行ってしまう。

「ひ、雲雀さんっ」

呼び掛けに返ってきたのは、鋭い一瞥だった。
乱雑に閉められた扉を見て、山本が肩をすくめる。
「ありゃ相当ご機嫌ななめなのなー」
「そうだね…」
「そりゃクリスマスに恋人が自分そっちのけで仕事してたら怒るよなー」
「そ、そうだよね」
「イベントのスルーって別れる原因になりやすいらしのなー」
「そ、そうなんだ」
「雲雀、結構楽しみにしてたのなー」
「そ、そうだね」

反論の出来ない綱吉を、山本が生暖かい目で見つめていた。







「恭さん?」
「何さ。僕が自分の部屋に帰って来ちゃいけないの?」
「いえ、……沢田さんは?」
「知らないよあんな子」
後ろで聞いていた部下は雲雀の怒りに真っ青になったが、長い付き合いの草壁は雲雀が拗ねているのが分かった。
(あの人も苦労するな…)
草壁は若きボンゴレボスの苦労を偲ぶ。
「僕は中にいるから。誰も来ないで」
「はい」

朝とは雲泥の差だと苦笑する。
雲雀が入っていった部屋を見て、草壁はお茶を淹れようと給湯室に向う。
湯呑みを一つ出し、お茶淹れていた草壁は窓の外を見て微笑んだ。

そして、必死に走って来る綱吉のために、お茶をもう一つ用意することにした。






[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!