ライ麦畑で会いましょう(コナン/新快) ※快斗が怪盗ではなく天才高校生マジシャンとして有名になってる 新一と快斗の高校は敷地が隣というご都合主義設定です 他の生徒を避けるようにして校庭の隅に逃げ込んだ。 あぁ、そうか俺逃げ込んだのか。 気付いて一度座り込んでしまうともう何もかもがめんどくさくて、がしゃがしゃうるさく安定の悪いフェンスに思い切りもたれかった。 天気がいい。 「ちくしょー、空のばかやろー」 なんでこんな日に空は青いのだろう。 「馬鹿はお前だろ」 振り返ると、フェンスの向こうに人が立っていた。 「工藤」 涼しい顔をしたままこちらを見下ろすのは隣の私立校とフェンスを隔てたこちらの高校でもそこそこに人気のあるサッカー部の有名人だ。 なんだよたかがサッカー小僧が、と思っていたが嫌味なことに頭もいい。 「昨日お前が番組でやってたやつ、簡単すぎるだろ」 ずばっと指摘されただでさえどんよりした気分が5割増しになる。 ミステリー好きを公言しているだけあってこの男は推理が得意でマジックのトリックもすぐに見破る。 「お前あれ見たのかよ」 「たまたまな」 昨日は黒羽が――キッドが出演した番組の放送日だった。 今話題の高校生マジシャン・キッド。その若さと気障な言動が受けて今やテレビやイベントにひっっぱりだこだ。 昨日放送があったのはパネラーとして参加していたキッドが番組の途中でマジックを披露すると言うありがちな形式だった。 大がかりな、とスタッフに言われて提案したネタはどれも難色を示され、揚句に前別のマジシャンが使ったセットの流用でステージをやる羽目になった。 トリックを一から作ってこそだなんて言うつもりはない。そのトリックをパフォーマンスの中でどう生かすかもマジシャンのオリジナリティだ。 それでも、間に合わせのようにやったネタで流石キッドだともてはやされマジックの話より好きな女のタイプや私生活の質問しかされない今の状況。 マジシャンとして有名になりたかった。 父のように。 求められて認められるすごいマジシャンに。 ふっと手を開けばなにもなかったはずの掌にカードが現れる。 息をするように自然にできるテクニック達。自分自身が習得してきた技術。未熟な所はもちろんあるけれど、 (分かってる、キッドに依頼が来ることはあっても“俺”に依頼は来ない) 誰も黒羽快斗など見ていない。 長い時間をかけて手に入れた技術は見向きもされず、その場凌ぎで作り上げたようなキッドというキャラクターだけが評価されている。 (俺、の価値――) 木陰がいきなりずんとのしかかってそこに沈んでいくような錯覚。体中が重い。 もう疲れた。 誰も俺を見てない。 「マジックなんてどうだっていいんだよ…みんなキッドの顔しか見えてないんだ。キッドに覆われたトリックも個性も誰も気づかない」 はは、と我ながら乾いた笑いになったなと思う。 「は、…どっか行っちまおうかなー…」 キッドを捨てて。 「お前ほんとに馬鹿だな?」 「あぁ!?」 「そんなにお粗末な仮面でなんでもかんでも隠しきれる気でいるなら思い上がりだぜ」 工藤がこちらを見ていた。 黒羽快斗を。 「探偵の目は惑わされずに真実を射抜く――たとえ世界中のどこに隠れてたって見つけてやるぜ」 間抜けで魚が嫌いでマジックが大好きで正義感が強い黒羽快斗を、と工藤が言う。 黒羽の喉がきゅうとすぼまる。 精一杯なんでもないようにして声を絞り出した。 「…世界中って、お前ただの高校生のくせに……」 「はん、たかが世界だろ。探偵舐めんじゃねーぞその気になったら絶対探し出すかんな」 「イケメンか!」 思わず爆笑してしまう。 ちょっとだけ泣きそうだったなんてそんなことはもうどうでもいいことだ。 工藤新一が警察に協力して密かに難事件を解決し、FBIにまで伝手があるその筋では有名な探偵だと黒羽が知るのはまだ先の話。 [*前へ][次へ#] |