俺の恋情 彼女の愛情 (松慶)
現パロ
「前田くんって、年上の恋人がいたりする?」
「えぇ?何で?」
」
「そういう雰囲気がしたの。お仲間じゃないかしら?」
彼女は、綺麗に口紅をひいた唇で笑った。
服装も同じ年の女の子に比べてずっと垢抜けている。背伸びした感じのしない、艶やかな。
「お仲間ってことは、濃さんも?」
彼女は肩をすくめ、思わせぶりに微笑んだ。
「俺の相手はねー、すごい年上で、すごい優しくない人だよ」
「本当?私もよ。」
「イチャイチャするのなんて徹底的に向いてないっていうか」
「そうそう。でも、そこがいいの!ってタイプでもなくて」
「率直にひどい人」
そうして、昔からの知り合いみたいに笑い合った。
彼女と慶次の相手はとても似ていて。
合コンだというのに自分達の恋人の話で盛り上がった。
慶次の、恋人とも呼べないような相手はとても特殊だったから、こんな風に話をするのは初めてだった。
彼女の恋も、訳ありのようだった。
その日は相手への不満や、自虐じみた愚痴。とりとめのない話をたくたんした。
メアドを交換して、また話をしようねと別れた。
「松永さーん?」
慶次の声はがらんとした部屋に落ちていった。
「いない、……んだ」
いつもこうだ。
嬉しかった気持ちを分けようと思っても、肝心の相手は、いつだって居てくれない。
ソファの上のクッションが二つ並んでいることが、なんだか酷く寒々しかった。
「…………松永さんは、俺が居なくなってもちっとも気にしないんだ、」
彼女の、困ったような微笑みを思い出した。
『私が好きで一緒にいるの。私が居なくなっても、悲しんではくれないと思うわ』
あぁ本当に、俺達そっくりだよ。
また会いたいと思っていた。
会って、またとりとめのないことを話したかった。
慶次は写真の中で微笑む彼女を見つめながら、あったかもしれない再開を想った。
着慣れない喪服が、余計に身の置き場をなくさせる。
遺影の中で、彼女はあの日と同じように笑っていた。
その人の存在に気付いたのは偶然で。
他より少し異質な年齢に目を引かれ、その人の目を見てああこの人が彼女の、と気づいた。
人が嫌いで偏屈そうな雰囲気が、松永と似ていた。
もしかしたら、本質が近いのかもしれない。
なんて。
ぼんやりと眺めていたけど。
慶次は見た。
ちらりと、おもしろくなさそうに不在の隣席に視線をやるその人の姿を。
『私がいなくなっても、悲しんではくれないと思うわ』
濃さん、濃さん、
ねぇ、見てたかい。
あんた、間違ってたみたいだよ。
ボロボロと、零れる涙が喪服を汚した。
「君は全く年甲斐もない振る舞いが似合うな」
「……」
泣きはらした目をしてやってきた慶次への第一声はそれだった。
ほんとうにやさしくない。
何かの動物のように、松永の座るソファの下でうずくまる。
「そんなに親しい友人だったのかね」
「え?」
「葬儀だったのだろう。抹香が染みついている」
「…松永さん、さ」
見上げる横顔は相変わらず慶次なんて眼中にないように書類をめくっている。
「俺が死んだらお葬式来てくれる?」
「都合次第だろうな」
「ふぅん」
慶次はもぞもぞとクッションを抱えこんだ。
「俺の定位置ってどこかなぁ」
「突然なんだね」
「考えといてね松永さん」
悲しまなくってもいいよ。
そんなこと期待しないから。
せめて、俺のいないそこを疎ましく思っていて。
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