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厳寒の候、一人の君へ (SW/カズケン)








冬が嫌いだった。
駅が嫌いだった。

あの人を残していかなければいけないから。




「じゃあ佳主馬くん、気を付けて帰ってね」
「うん」
「あ、なんかあったら」
「うん」
「えっと、」

焦ったように言葉を紡いでいく健二を、佳主馬はじっと見下ろしていた。
この背が彼を抜いたのは去年のこと。
春に駅まで迎えに来てくれた彼は、変わった視線に目を丸くして驚いていた。
今は冬。
足早に周りを横切っていく人はみんな寒そうに肩を上げ、厚いコートを着ている。

佳主馬の眼には、健二の服装が薄着過ぎるようにしか見えない。
それは今にも凍えそうな。

健二の薄い唇から、息が白く吐き出される。

きっと指先は氷みたいに冷たくなっているのだろう。
そのくせ彼はこうしてわざわざ佳主馬を見送りに来て、そして電車が出るまで帰ろうとはしない。

駅の構内にいるのに外から入り込んでくるのか、吹いていく風は冷たい。

これからこの人は俺と分かれて、ここより冷たい風が吹く中、たった一人であの冷えた部屋に帰るのだ。
あぁ、失敗した。せめて暖房をつけてあの部屋を出ればよかったのに。そうすれば、彼が戻ったときに、彼が温かさの中で息をつけたのに。


健二の細い肩を見て、佳主馬はいつも責め立てられた気分になる。
スポーツバッグの重みが増して、佳主馬を詰る。

これは罪だ。

佳主馬は彼を置いていく。

この人を、寒い中に、冷たい部屋に、


パステルカラーのマフラー、その隙間から見える彼の白い肌が。




重たげな音でスポーツバッグが放り出される。

「えっ、か、佳主馬く!?」

混乱する健二の前で、佳主馬が着ていたダウンを脱ぎだした。

「ん」
「えっ」
「着て」
「えっ!?」
「いいから着て」

差し出されたそれを恐る恐る羽織った健二を確認して、スポーツバッグをかけなおす。

「ちゃんとそれ着て帰ってね」
「えっ!?いやだって佳主馬くんは!?」
「いい。どうせ新幹線の中じゃ脱いでるから」
「だっ、」

丸い目を射抜くように視線を合わせる。
健二の瞳の中に、真顔の自分が写っていた。


「寒いうちにまた来るから。それまでそのジャケット着てて。絶対」














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あきゅろす。
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