水葬ゲーム (5327)
「きらいなんでしょう。」
薄い色の唇を開いて彼は言った。
きらいなんでしょう。
暴力のにおいも、痛いのも傷つけるのも。
「嫌いだよ、好きなわけっ、ない……」
沼みたいに深くて重い瞳。
彼はその瞳で見つめてくる。
「きらいなんでしょう。
過分な期待も重責も。それでも逃げてはいけないと思うその義務感もみんな、
きらいなんでしょう。
ならやめてしまいなよ」
彼は言う。
やめてしまえ。
「できないよ」
答えた。
本当はやめてしまいたいけれど。
「そう…、」
沈んでいく。彼は、ただゆっくり沈んでいく。
「君はそっちを選んだの。」
ずぶずぶと、もう首まで。
「そう――じゃあね。」
葬られたのは彼だった。
弔ったのは俺だった。
葬られたのは俺だった。
弔ったのは彼だった。
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