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novel
春の夜道
 思ったよりも酔ってしまって居たのか、冷たい夜風が熱った体に心地良く感じた。
 不図、何時もと違う帰路である岬の、海に近い場所に女性らしい人影が見えた。
「こんばんは」
 おれは声をかけた。女性がこんな時間にこんな所で何をして居るのだろうと少し怪訝に思った。
「こんばんは」
 おれの方へ向き直り、相手は返してきた。月の光でほんの少し顔が見えた。やはり女性だ、それも飛び切り美しい。
 女性は壊れそうな微笑みを其の美しい顔に湛えて居た。
「こんな時間に、どうしたんです?」
 女性の微笑みに思わず息を呑み、おれは女性に訊いた。
「此処に私の愛した人が居るのです」
 女性は視線で海を示した後、此方に視線を戻して言った。
「海、に…?」
「はい」
 女性は海を見つめる。真っ直ぐで、何処か切ない風な視線だった。
 翌朝、目を覚ますと件の女性が脳裏に浮かんだ。平素の寝覚めの良さはどうしたのか、ぼうっとする様な、まるでまだ眠っているかの様な甘い心持ちである。飲み過ぎたのだろうかとおれは頭を掻いた。

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