高めあえること


 初夏の風が吹いている日曜の午前。太陽の光が満ちる中、とある学校に生徒が少しずつ集まってきていた。おそらく部活なのであろう。
 その学校のグラウンドの近く、部室があるのだろうと思しき建物の前に、ジャージを着てこれから部活かという二人の少年が、地面に座りストレッチをしていた。周りには誰もいない。彼らは一番に到着したのであろう。短髪に眼鏡をかけた青年と茶けた髪に快活な表情の少年だ。

「梅雨も明けていい天気っすね! 初夏の風は気持ちがいいぜー!」
「はは、そうだな」

 茶けた髪の少年が眼鏡をかけた青年にそう言う。敬語を使っているところから先輩と後輩の仲なのだろう。茶けた髪の少年が股関節のストレッチを始めたころ、眼鏡をかけた青年はストレッチを終え、近くに置いてあったノートを広げた。そのノートには「練習メニュー」と書いてある。茶けた髪の少年はそれに気付くとすかさず口を開いた。

「服部さん、今日の部活のメニューは何を?」
「うん? 今日は、うん、ダブルスの練習を中心にやろうかなと思っているよ」
「ダブルスっすか〜……。じゃあ、服部さんとですね」
「ああ、そうだな、コウ」
「ん〜! そうか〜、今日はダブルスかあ〜……」

 コウと呼ばれた少年が伸びをしながらそう言う。服部と呼ばれた青年は「嫌か? シングルスの練習の方がよかったか?」とコウに聞く。その表情はどこか申し訳なさそうに、しかし意見を変えようとはしない真っ直ぐとした目をしている。

「ああ、いや。別にそういう訳じゃなくて」
「だったらどういうこと? 何かそれには、その言葉以上の意味が含まれている気がするのだけれど……?」

 コウは服部にそう言われると見抜かれたか、という表情をした。相変わらずこの人は観察眼の鋭い人だ。だから時としてそれが嫌なのだけれど、それが自分にはなくて羨ましくて、とても尊敬する……。彼は心うちだけでそう思い、居直って服部を見た。服部はその柔和な表情を変えずに、全てを受け入れるような温かさを勝負の中に身を置く厳しさの中に持ってコウの顔を見た。



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あきゅろす。
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