夏の風 SPECIAL
「あっちー……」
火が焚ける工場。一人の少年が、恐らく父親の手伝いなのだろう、父親と同じような格好をしてそこにいた。
「キリ、愚痴を言うくらいなら出て行け」
随分体の大きい彼の父親が、彼に向かって言葉強く吐いた。
「わかってるよ……」
二人の男は真夏の暑さの中、滝のように汗をかいていた。
「はあー、熱かったあ……」
それから大分経ち、彼と父親は工場から出てきた。
「キリ、疲れたか」
「ん、まあね」
彼はその顔を疲労でくたくたにさせ、答えた。
二人の男性が涼しい室内に入ると、一人の女性が二人にかき氷を持ってきた。二人はそれを頬張りながら、目の前に吊るされた、美しく彩られ、見た目も爽やかなガラスの風鈴を見た。
彼はいつも見ている、どちらかといえば見飽きたという表現が似合うそれを見ながら、今までに感じたことのない感情を抱いた。
「……だから、親父はやるんだな」
「ん? 何がだ?」
「あんなクソ暑い中……」
その軒先には看板が掲げられていた。
大日向ガラス店
風が吹き、綺麗に塗られた爽やかな風鈴が鳴った。
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