彼とクラスメート

「今から帰り?」
「うん。帰って……勉強、かな?」

 彼らは肩を並べ、何と言うことのない、普通の友人としての会話をしながらその病院の出口へと向かっていた。そこまで行くのには自動ドアともう一つ、手押しの重いドアがある。それで冷気を遮断しているため、病院の中は温かい。その重いドアを、彼は彼女より早く腕を出し押した。
 手首とコートの間に外気が吹き込んでくる。とても冷たい空気だ。

「勉強……。竹田さんって、確か……」
「うん、医学部」
「お父さん、確かこの病院に勤めているんだっけ?」
「うん。だからかな? お医者さんになりたいと思ったのは。家なんて、親なんて関係ないと思っていたけれど、やっぱり影響力ってあるんだね」

 彼女は彼にそう言うと彼の方を向いて少しだけ顔をかしげてまた無邪気に笑ってみせた。その顔からはどうしても医学部を受けるために日夜勉強をしている学生というような雰囲気は感じられない。

「……確かに、そうだね」

 彼はその顔を見て、彼女に負けないくらいの柔らかい笑顔をして少し遅めの相槌を打った。そして少しずつ、だが確実に遠ざかっていく病院を仰ぎ見た。
 少し古びた総合病院。近くに薬局があり駐車場も完備されている。

「不破くんは?」
「……」
「……不破くん?」
「えっ? あっ、えっと、何?」
「うん、だから、不破くんは? 受験」
「ああ、僕は就職だから。地元の村役場でちょうど募集をしていてね」
「そうなんだ……」

 彼女がそう言ったところで、二人の目の前の道は左右に別れていた。一方は人通りが多く、バス停のある通りに続く道で、もう一方は降った雪が解けずに残り、それが晴れたその日の太陽の陽を反射している緩やかな坂に続いていた。彼の下宿先はその坂の中ごろにあった。

 彼はその坂を一瞥すると何も言わずに彼女とともにバス停のある通りに続く道に足を向けた。



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あきゅろす。
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