彼とピアノ


 彼は音楽室でピアノを弾いていた。その曲は恐らくショパンであろう。とても美しい音色だ。

 彼はとても美しい顔たちをしている。見る人が見れば少女に見えるほど。それを引き立たせているのは少々乱雑に伸ばされ、―― しかし彼からすれば計算されたような長さの ―― 無造作に跳ねている髪のせいかもしれないし、流線型が綺麗な赤いふちの眼鏡のせいかもしれない。しかしその顔からは想像もできないほど、彼の体は鍛えられている。細いその身には、恐らく無駄な肉などついてはいないのであろう。

 と、彼は突然ピアノを弾くのを止め、遠くを見つめ始めた。彼の実家がある方を、じっと……。



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