雨の人


 長雨が続いていた。
 売上げは芳しくない。確かに元々、私の働くこの喫茶店は、それほどまでに忙しい店ではないけれど、最近はより一層、暇という言葉が似合う。そのことを店長には、口が裂けても言えないけれど。

 でも、お昼時ともなれば、近くのビルで働く多くの人たちが来店してくれる。よかった、この店がビジネス街に近いところにあって。そうじゃなきゃ今ごろ、きっとこの店はつぶれている。私は時折、そう思う。店長には、口が裂けても言えないけれど。

 暇と言ったこの店で、しかし、私は最近のこの長雨に一つ、安らぎを覚えているのだ。きっとその人を見つけなければ、あの時気にかけることもなければ、この長雨は、本当にただの鬱陶しいだけのものになっていただろうと思うのだ。

 私はその人のことを、何も知らない。ただ知っているのは、雨が降れば、見られるということ。いつも急いでいるということ。そして、なぜか、傘を持って走る人ということだけだ。



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