novel
新しい世界[シュタ→?マカ]
※マカパパがチョロっと出てきます。
朝。
気怠い体を起こし、枕元に置いておいた煙草のケースに手を伸ばす。
残り三本の内、一本を抜き取り口に加え火を付ける。
「ふぅー…。」
今日は、先日の特別補習でいじめてあげた生徒達の担任として、死武専に行く日だったな。
先輩と先輩を奪った女の娘の担任…。
俺を独りにした女の娘…。
少しのイラつきはあったけれど、意外と冷静に対処できた。
俺を怖がる感じは、少し先輩に似ていたな。
残った煙草を灰皿に押し付け、身支度をする。
俺が教室に入った瞬間のリアクションが楽しみで仕方ない。
いやぁ、楽しかった。
あの子のリアクションが特に良かった。
マカ=アルバーン…さすが先輩の娘だ。
公認で解剖も出来て、生徒達の観察も出来る。
なかなか良いかもしれない、教師というのも。
とりあえず、弁当を広げ昼食にしよう。
と、背後によく知る気配を感じた。
「シュタイン…。」
「何ですか、先輩。」
「お前ぇ…マカに何をしたぁああ!!!」
「は?何もしていませんが?」
あ、何もしていないのは嘘か。
特別補習はしたし。
「マカの様子が明らかに登校時の明るくて可愛らしい状態から確実に怯え――」
「はいはい。それは特別補習の影響ですよ。」
「それだけじゃないだろ!!解剖とかえげつない…うぐっ!!」
授業を覗いてたのか、この人は。
思い出しゲロを昼食時間にするなんて、相変わらずだな。
というか娘可愛さに一体何をしているんだ。
「俺の授業に文句があるんですか?」
「あるさ!解剖以外もちゃんとやれ!!」
「やりますよ、解剖の合間に。」
「合間って何だよ、合間ってぇっ!!」
あー…ダレる…
「もういいですか?昼食を昼食時間に食べないでどうするんですか。先輩も出すんじゃなくて、食べたらどうですか?」
「う……。」
『ですか攻め』もなかなか効くなぁ。
トドメもしておくか。
「娘さんから相談されたなら、文句を聞いてもいいですが?」
「うぅ………うわぁあああんっ!!!」
あー…走って逃げてった…
ちょっとからかい過ぎたかな?
俺の元を離れて一人の父親になってから、完全に只の親バカに成り果てている。
それはそれで、からかいがいがあって面白いけれど…
あの女は何故、先輩と別れたんだろう。
プレイボーイな事は最初から判っていた筈。
俺から奪ったくせに、何故。
答えの出ない問題にムシャクシャしてきた。
次の授業も解剖にしてやる。
今日一日の楽しい(解剖の)時間も終わりかぁ…
そういえば、今日一日の感想を報告してくれと死神様に言われてたな…
報告ついでに校舎内を回るか…
ガラガラガラガラガラ…
「博士っ…。」
ん?この声は…
「何か用ですか?マカさん。」
栃栗色のツインテールを揺らし、大きな深い緑の瞳を向けている。
父親と同じ色。
声が震えているな。
俺の前ではすっかり怯えるチワワだな。
と、思った途端、少し力強い視線になった。
「あの授業は何なんですかっ。」
「はい?」
「解剖ばっかりでえげつないです!!」
あ…
「解剖以外もちゃんとやって下さい!!」
もしかして…
「…やりますよ、解剖の合間に。」
「合間って何ですか、合間ってぇっ!!」
「ブフッ!!!!」
思いっきり吹き出してしまった。
マカの顔が見開いた。驚いたんだろうな。
俺も驚いたよ。
「クククク…」
「な、何笑ってるんですか?!」
「ク…いやね、先輩…君のお父さんも同じような事言ってたからさ。」
「え?!パパが?!」
「マカさんの事が心配で授業を覗いてたみたいですね、クク…。」
「さ…サイッテー!!」
顔を真っ赤にして怒っている。
やっぱり似てる…面白いな。
マカに近寄り手を伸ばし、頭を撫でてみた。
予想外だったんだろう、驚いた顔をし騒いでいた声を静かにした。
俺にも予想外だった。大人しく撫でられているマカが。
あんなに怖がっていたのに。
「先輩に似てますね。ヘラヘラ」
と言ったら、頭を撫でていた俺の手が乱暴に外された。
「に、似てません!!とにかく!解剖なんて博士の趣味を授業に持ち込まないで下さい!!」
「…さっき言ってた事よりキツくなってるね〜。」
「そっ、そんな事ありませんっ!!」
面白いなぁ…もっと観察していたい…
「OK、じゃあ今から僕に校内を案内して下さい。そうしたら、考えてあげてもいいですよ。」
「え?!私がですか?!」
「他に誰か居ますか?」
言いながら、誰も居ないだろ?と辺りを見回す動作をしてみる。
怪訝な顔をして、可愛らしい唇を尖らせ、さくらんぼのようにしている。
指で触れたらどんな反応をするだろう。
…赴任初日で無職になる訳にもいかないし、まだ自重しておこう。
「嫌ならいいですが。」
「…解りました。案内します。」
仕方ないと言いたげな顔も、なかなか良い。
ん…?良い?
あぁ…興味深い…だな…。
マカは色々な教室を案内してくれるけれど、興味が湧かない。
行く先々の教室にいる、先生や生徒が挨拶してくるのを適当に笑顔でやり過ごす間、マカが少しずつ機嫌を取り戻しているように見えた。
と、生物室の前を通り過ぎた。
「マカさん?」
「何ですか?」
「生物室を案内し忘れていますよ。ヘラヘラ」
「そこは良いんです!…どうせ博士は一人でも見に来るでしょ。」
「あぁ…怖いんですね。」
「ちっ…違いますっ!」
「じゃあ、入りましょう。」
マカの手を掴み、生物室のドアに手を掛ける。
「ぁ…やだっ…。」
ドクンッ…
マカの怯える声に、胸の辺りが異常な反応を起こした。
蕩けるような…躍るような…唇の端が勝手に吊り上がる。
ガタッ!
「あら?」
生物室のドアに鍵が掛かっている…。
「残念ですね〜。」
明らかに安堵の表情を浮かべているマカをもっとイジめたくなった。
「鍵、貰いに行きましょうか。」
「嫌です!博士と生物室なんて、絶対入りません!」
あ、今、本音が見えた。
「もう案内しませんよ!」
「しょうがないですね〜。」
きっと(マカの反応が)面白いのに…と思いつつ、これ以上イジめると、先輩に知られた時が面倒なので、自粛しよう。
「あの、博士。」
「何ですか?」
「もう離して下さい、この手。」
あぁ…逃がさないように掴んだんだったな。
「折角なんで、このまま案内――」
「嫌ですっ。」
言うと思った。
…けれど、さっきまでの拒否反応とは違って、少し緩い気がする。
押してみるか。
「良いじゃないですか。ピクニック気分で。」
「椅子に座ったままのピクニックなんてありませんよ。ってゆうか、私に引っ張ってもらおうって魂胆でしょ。」
頬を膨らましているけれど、何というか…
「なっ、何ニヤニヤしてるんですかっ。」
「何でもありませんよ。」
ギシッ、と椅子の音がしたのは、俺が立ったから。
「博士?」
「教員室に寄って下さい。椅子を置いてきますから。」
「え?」
キョトンとした目で見上げてくる。
これを言ったら、どんな反応をするかな…。
「椅子に座ったままのピクニックは無いんでしょう?ほら、立ちましたよ。」
「えっ、あのっ…。」
「だから、手を繋いでいましょう?」
「なっ…!!」
マカの驚いた顔が一気に熟れた林檎のように赤くなった。
実験結果に、俺は高揚感を感じた。
青白くなるか、赤く染まるか、変化無しか、リトマス試験紙のように試したつもりだったけれど、
俺は…赤く染まる以外の結果を望んでいなかったような気がする。
教員室に二人で手を繋いだまま入り、片手に引きずっていた椅子を適当に放り出した。
他の教師が居ない。
少しリアクションを期待していたけれど、先輩も居なかった事は幸いだったな。
「さ、案内の続きをお願いしますね。」
掴めば、思っていた以上に小さな手。
この手で、かつての俺のように鎌を振り回している。
こんなに…か弱い手で。
「…はい。」
そう言った彼女の顔が、照れたような、けれど嬉しそうな顔で。
何故そんな表情をするのか気になる。
興味…
そう、これは興味だ。
今度は彼女を研究しよう。
全てに期待しないように
頑なに閉じていた
新しい世界への扉が
やっと開いたような気がした。
後書き↓
本当はもっと長い予定だったんですが、
力尽きてしまいました;
気持ちが復活すれば続きを書きたいと思います。
こんな駄文を読んで下さり
ありがとうございました。
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